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The purest expression of grief



肩を揺すられて目を覚ますと夫が私に覆い被さっていた。狭くて身動きが取れず、辺りは真っ暗だった。強烈な痛みを感じたが身体の何処が負傷しているのか分からず、ただ浅い呼吸をしながら遠くで助けを呼ぶ声を聞いた。私達は今瓦礫の下にいるらしく、段々と声が重なり大きくなっていった。だが私も彼も、とてもそんな声を出す事は出来なかった。耳元で大丈夫か、と彼は息を切らせながら私に言った。唯一自由の効く右手で彼の身体に触れた。私は大丈夫だと返事をした。恐らく右脚が潰れていたが、彼を心配させない為そう言った。助かるさ、と彼の優しい声がそう囁いた。彼は私を不安にさせた事がなかった。暫くして彼の体重がどっしりと私の身体にかかった。重たくて苦しかったが、朦朧とした意識の中で彼が死んだのだという事を理解した。私は何度も彼の名前を呼んだ。幸いな事に、彼が支えていた瓦礫は崩れては来なかった。

夫を遊星爆弾で亡くし、彼女は右脚の治療に専念した。山南は彼女と、そして彼女の夫とも友人であった。身内がなかった事もあり、山南は彼女のいる病院へ足を運んだ。防衛軍に在籍する傍ら、彼なりに尽くした。小雪を見る度、あいつならどう声をかけ、励ますだろうか。山南は考えたが分からなかった。様子を見に来る山南に小雪はいつも笑顔で迎えた。その瞳の奥にあるひっそりとした憂愁。山南はそれを感じながら、元気付ける言葉にはしなかった。彼の死を乗り越えるのは彼女の課題である。ただ自分はそんな彼女の近くにいたかった。例えその笑顔が崩れ、悲しみの余り気が確かでなくなっても、自分はどんな彼女でも受け止める事が出来ると思った。数年後、小雪は職場復帰した。終始彼女は変わらず、山南の前で明るいままでいた。山南はその日々を思い返した。華のある彼女は何処にいても目立ち、人の視線を奪う。美しい顔に気品が備わっている女性であった。
「久し振りだね」
小雪を見て山南はむず痒いような、恥ずかしいような気持ちになった。 庇を上げも下げもせずに触る。短く返事をする重低音の声に、小雪は微笑んだ。姿勢の良い胸の張った軍服姿は此処では珍しい。宇宙の未知なる巨大な力と戦う彼には威厳に満ち溢れ、それでいてその庇の影には男の優しげな目を持っている。
「知人の見舞いにな」
彼女の目の下には薄っすらと隈が出来ていた。顔色も些か悪い。彼の視線を辿った小雪は少し笑いながら言った。
「人手が足りてないからね」
その時、彼女の後ろにある一つの病室に数人の看護師が駆け込んだ。激しくなる機械音。小雪は振り返り、そしてもう一度山南を見た。
「ヤマトが帰還するまで地球を守って」
「任せておけ」
地下都市の病院。窮屈で冷たく、空気の中に人々の苛立ちや絶望が立ち込めている。
「会えて良かった」
小雪の言葉がすとんと山南の中に落ちた。

12月。ヤマトが帰還した。
元の姿へと戻って行く地球を見た時、心に秘めたる存在が熱い涙と共に自身に降りかかった。
君が好きだ。俺は君が。
この地球が、彼女の生きる希望の一つになる事を願う。そして、君の永遠の幸せを願う。