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Fifty feet tall and revved up too high



長時間活動をせず冷たくなっている端末を取り出し電源を入れた。数件仕事の連絡が入っておりそれに応じる。スクロールをして再度確認するが恋人からの連絡はない。何となく彼女の連絡先を表示する。暫く眺めてから真田はその電話番号に指で触れ、端末を耳に当てた。長い呼び出し音。同じように自分の心臓の音が鳴っているのが分かる。だが恋人の声は聞こえない。真田は端末を下ろし時間を見た。連絡なしで家に行くのは迷惑だろうか。真田は鞄を持ち研究所を出た。
いつもとホームが違うだけに何だか新鮮だった。自宅とは反対方向の電車に乗り込み、空いている席に座る。一目見たいと思うと抑えられなかった。ドアの上に設置されてある画面を見ると暴動の報道が流れてあった。場所は今から行く所、彼女の家の近くであった。胸に持つ熱は段々と不安に変わる。焦りに真田は再び端末から電話をかけた。途切れない一定の音。ここは電車の中だという事をすっかり失念し、真田は恋人に電話をかけ続けた。

インターホンを押したが不在らしかった。玄関の前で真田は立ち尽くす。近くでサイレンの音が何重にも響き合っている。物が壊れる音や悲鳴なども聞こえた。真田がもう一度インターホンを押した時、その腕に何かが触れた。振り返るとこそに小雪が立っていた。少し驚いたような表情を浮かべて。
玄関のドアが閉まると先程の騒音は聞こえなくなった。小雪な部屋は相変わらず殺風景だった。世界が終わろうとも冷静である。広がる静寂さを払うように真田は口を開いた。
「暴動が起きたようだが大丈夫だったか?」
「うん。でも最近多いね」
真田の隣に腰掛けた小雪はテーブルの上にあるラジオをつけた。静かな音量で淡々と今日の出来事を報道している。その近くに広げてある資料が目に入る。やはり彼女は。真田はカップに手を伸ばした。
「私、召集されたのヤマト計画に。航空隊として」
カップの中に入っている、湯気の出ているコーヒーを見た。
「受けるのか?」
「勿論」
小雪はラジオ局を変えた。毎日される同じ報道に飽きたのだろう。短い雑音の後に一昔前らしい音調の音楽が流れた。
「ヤマト計画の達成は不可能に近い」
だから君には乗って欲しくない。この言葉を彼女に吐き出したいと思うも真田は口を閉じる。
「そうだね」
小雪が少し笑った。知っている曲なのだろうか。だが文化に疎い真田には分からなかった。二人の沈黙の間に音楽が流れる。真田は小雪の横顔を見つめた。帰るよ、と言うべきなのだろうが声が出せなかった。少しでも一緒にいたかった。こんな、薄暗くてもう空気が汚染しているのではと疑うような所でも。いつ暴動に巻き込まれるか分からない所でも。人類の滅亡が寸前でも。今は小雪と二人でいたかった。

真田は電車の窓から同じ建物が並ぶ区の、味気ない景色を眺めた。結局彼女には何も言えなかった。もし自分の言いたい事を彼女に伝える事が出来たら何か変わるだろうか。感情的になり取り乱した自分を見たら彼女は何か感じるだろうか。分からない。彼女は私の事など頭にないから。だがそれでも尚、小雪を手放したくないと思う。彼女が全てだから。それが痛みを伴う愛だとしても。ヤマトに乗るな。ヤマトには私が乗る。君はここで私の帰りを待っていて欲しい。ここで、私を。

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