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Star treatment



父を冥王星海戦で亡くしてから後の事はあまり覚えていない。毎日泣いて過ごしたかも知れないし、考えないようにする為に勉学に励んだかも知れない。ただぼんやりと物を見る事が多くなった。何をするにも疲労を感じ面倒に思う。今までに自分が心惹かれた物は全てその意味をなくし、ただ父の死だけが残った。私は何故かあの人だけは死なないと思っていた。本当に強い人だったから。だがそれがいとも簡単に死に、亡骸もない。遣る瀬ない。だから私はヤマト計画の招集に応じた。こんな息の詰まる地下都市で死ぬのは御免だった。人類滅亡まで後一年。それは別に良い。自分は科学者でもなければ英雄でもない。だが父はそんな地球ではなく宇宙で死んだ。その父に少しでも近付く方法、それがヤマトだったというだけである。

その彼の目。彼の目を初めて真っ直ぐ見た気がした。一緒に過ごした時間は決して短くはなかったのに。寝不足で貧血気味。痩けた頬。骨格に密着した脂肪のない皮膚。顔程ある大きな手が窓に触れていた。まるで私に手を伸ばすかのように。
小雪。死ぬな。
彼はずっと、今までずっと私の事を思っていたのだ。私はその事実に気付かずに、死ぬ事も厭わずに。彼を見る事もせずに。亡き父を求め、自分勝手な願望に縋った自分を彼はどう思っていただろうか。あの彼の目。私に生きていて欲しいと願っている目だった。彼は科学者として地球を守る事に全てを捧げていた人だった。毎日未知の課題に取り組み、一隻でも多くの、一人でも多くの人間を救おうとしていた。事実はそれだけではなかったのだ。彼は死にゆく私までも。
「父さん」
楽しくまた悲しかりし記憶の名残。胸にある喜びと苦しみの中ただ一人彷徨う。
「志郎、」
恋人の眼差しはその孤独より解き放ち、静かに光る星々に注がれる。

真田はそれを流れ星だと思った。キラリと光る物体。だがそれはヤマト艦載機であった。敵の偵察機を瞬く間に撃墜し、その戦闘攻撃機の周りで次々と黒い花火を上げている。コスモファルコン、真田は心の中で呟いた。赤く眩しい閃光を華麗に避け、この大宇宙を大いに泳いでいた。初めて君を見た時と同じだ。こうやって君は私の目に飛び込んで来た。彼女は宇宙を味方につけ、己の存在の小ささを実感させる。そんな君を私は忘れる事が出来ようか。その時にもう私は君の姿を、この胸の奥深くに刻んだのだ。君のいるところにこそ愛があるものを。君のいるところにこそ不滅の輝きがあるものを。

小雪の操縦する機体に拾われ、ヤマトに帰投する途中であった。彼女からの視線を感じ、真田が振り向くとすうっとその桃花眼を細めた。何か良からぬ事を考えた時にする──そう真田が思い返した時には航空機はクルクルと回転していた。聞こえるのはエンジンの轟音と、恋人の心底ご満悦な声である。真田は頭を抱えた。二度と乗らない。そうだ二度と乗るものか。彼女の運転する、全ての機械に。そんな真田の悲鳴は固く閉じられた歯の奥で止まる。星の慈しみだよ、と小雪は言った。

Arctic Monkeys - Star Treatment