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Ride



小雪は空いた時間を見つけると車に乗る。長い間地下での暮らしを余儀なくされたその反動でもあり、元々彼女は根っからの車好きであった。真田は左腕の時計を見た。そして顔を上げると傍の路肩に一台の車が停まった。ブラックのシンプルなスポーツカー。真田が助手席のドアを開ける。車高が低い為に上半身を随分屈ませて乗る。真田は運転をしない。彼女と出かける時は。
真田が物思いに耽っていると車は減速し始めた。視線を動かすと路肩に停車しているバイクがあった。それに跨っている男。小雪は運転席の窓を開けた。真田はその男を見た事があった。共にヤマトに搭乗した航空隊の一人である。軽く言葉を交わし、小雪は窓を閉めた。真田さんは運転しないんですね。真田はその男の別れ際の思考を読み取る。運転しないのではない、運転させてくれないのだ。ひらひらと手を振っている男が徐々に見えなくなり、車は国道に出た。後ろから強い西陽が差す。東の空も暖色に染まっていた。夢ではないかと思う。彼女と地球を離れ、大マゼラン銀河のイスカンダルへ行って帰って来たのだ。往復33万6千光年。そして今、彼女は自分の隣にいる。自分と共に人間としての時間を過ごしている。この地球で。

登録されている戦闘機の数字を真田は目で追う。真田は無意識に肩に力を入れ、画面を凝視する。彼女のシグナル──こうなる事は分かっていた筈だ。分かっていて彼女を止めなかったのは自分ではないか──が消えない事を真田は願った。誰に願ったかは分からない。ただ彼女を無事に返してくれ。小雪はその機械と共に死ぬ事が本望だと思っているのだ。自分は彼女の命を繋ぎとめている存在ではない事を真田は知っている。例え恋人であっても。その途端、真田の胸に数々の後悔が押し寄せた。もっと二人の時間を作っていれば。もっと素直になっていれば。もっと君に沢山の言葉を伝えていれば。死ぬのが惜しいと君が思う程、もっと君に。

≪無事か≫
小さな画面に映し出された三文字。その短い言葉が脳の中で、彼のしっとりとした低い声で響く。無事か。恐らく彼からだろう。無事ではなかったら此処にいないよ、とヘルメットを外しながら少し笑った。分かっていて連絡を寄越すんだから。小雪はその画面に触れたが、こちらからは返信が出来ないようだった。もし地球が元の姿に戻ることが出来たら、志郎を助手席に乗せて長いドライブをしたい。壊滅し尽くした景色しか記憶にない祖国だが、とても美しいと聞いた事がある。きっと彼は黙ったまま、窓の外の流れる景色をぼんやりと見ている事だろう。頭の中ではいつも通り、過去の事やこれからの事、色んな事を考えているだろう。気分転換に連れて来たのに、と私は笑う。志郎はどんな表情をするだろうか。

真田は隣でハンドルを握っている恋人を見た。横顔。真田は恋人の横顔も好きだった。奇跡が起こったのだ。その奇跡が今も続いているのだ。

Lana Del Rey - Ride