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All you have is your fire



あんな彼女は今まで見た事がなかった。凄絶な火を燃え立たせた彼女の気息は勢いを増す。その中に見た怒り。生粋の怒り。少しも臆する事なく毅然と立ち、爛々と燃えている。今にも却火が滝のように注ごうとしている。癒える事のない焼け爛れた憐れな彼等を想像した。そしてその魔法にフリットウィックは杖を向けた。
サラは自分に近付いて来るフリットウィックを見た。炎の中から見えたスリザリン生達の目には異様な怯えを漂わせていた。だがそれとは違う、先生の目の表情。読み取る事の出来ない感情。恐怖や驚きとは違うもの。サラは考える事を止め、もう一度彼等を睨みつけた。
「大丈夫かい」
見せてごらん、とフリットウィックは大きな手を差し伸べた。サラは視界が霞むのを感じ、そんな自分を心底情けないと思った。杖を握り締めたまま、その場から逃げるように去った。自分の中にある世界は一度音を立てて崩れると、それで終わりではない。また何度も音を立てて崩れる、脆いものだ。穢れた血と言われ笑われた瞬間、無感覚にも杖を構えていた。そして腹の底で何かが煮え返り、それに身を任せた。怒り。孤独と哀しみ。無駄な死。両親の死。炎。一切の物を焼き尽くす炎。戦慄と苦痛。殺してやりたい。みんな、みんな殺してやりたい。何が可笑しくて、へらへら笑っている。

彼女にはセンスがあった。真面目な性格で賢く、何度も真剣に呪文を唱え、どんな呪文も授業中に習得する。フリットウィックが褒めると、嬉しそうにはにかみ謙遜をする。普段余り見せない笑顔はとても人懐っこい、子どもらしいものだった。彼女は呪文学が好きなのだと分かる。この生徒はこの先、呪文学で悩む事はないだろう。そうフリットウィックは思っていた。

火だけが優しく弾ける音を立てていた。それに照らされている横顔をフリットウィックは見た。一年生の誰もが持つ幼い顔立ち。自分に言わせてみれば産まれたてのような年。この少女が上級生にも劣らぬであろう強力な魔力を放ち、今日数人の生徒を殺しかけた。サラ。マグル生まれの魔女。静粛で、夜の静けさのようにしっとりと生きている。だがそれは、彼女の内にある凡ゆる血管が何かに毒されているからではないか。彼女の生の、測り知れない深淵にあるもの。それは燃え立つ怒りそのものであり、それをそこで飼い続けているのだ。
「罰則とは別に、君に個人授業を設けようと思う」
「個人授業、ですか?」
「ああ。魔力を上手にコントロールする方法を学ぶ。今日のように怪我をする事なく、魔法を意のままに操れるようになる。必ず役に立つ。最初は難しいかも知れないが、何でも練習だ。どうかね?」
彼女は怪我をした右手を見た。そして自信のない表情でゆっくりと頷いた。

永劫の猛火。大空は炎々と燃え盛り燦然と輝く。まるで巨大な焦燃の鉱炉。眩しき焔の閃光。彼女の魔法。サラの、サラ自身の生命。若い魂。一生忘れる事のできないもの。それを私は見た。