×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

Command you to be well



無造作に伸びた髪。切り傷の入った顎。そして氷の刃のように鋭い切れ長の目。冗談こそ言わないが、たまにその目を細めて分かりにくい笑顔を作る。そしてたまに舌打ちもする。 養成学校にいた頃と比べて彼は少し変わったが、決して人間味のない人ではない。彼の中にある闇を無意識にちらつかせる生意気なところもあるし、彼なりの優しさも持っている。その目に映っているものは何だろう。知りたいと深く思うけれど、彼は傍に人を置かない。

無駄のない動作に洗練された技。限られたチャクラ量で繰り出される術一つ一つが見る度に精度を上げている。そして微塵も読み取る事の出来ない表情。まるで人格が変わったように淡々と優雅に人を殺める姿は昔から変わらない。彼女こそ本当の忍。忍びの鏡。優秀だ。狂気さえ感じると言う輩がいるが、自分はその完璧さにこんなにも心惹かれている。忍は人間ではない。人間は迷い、失敗をし、良心を持つ。だが忍はそれら一切を持たない。彼女は里の為に動き、里の為に死ぬだろう。

『戦争が始まるね』
ダンゾウは隣にいた小雪を見た。彼女は遠くにある、火影の顔岩を眺めている。いつだって彼女の声や話す速度はダンゾウに安心感を与えた。
『死ぬ事が他人事のように感じる』
木々の間を通り過ぎ、吹き抜けて来た夏の匂い。木の葉の匂い。額当ての黒色の紐が彼女の頬に当たる。
『他の違う誰かが死んで、自分はこの里で生きる気がする。それは多分、私は何も未練を持っていないからかな?例えば家族とか、大切な人がもしいたら、』
小雪は口を閉じた。そして隣にいるダンゾウの顔を見た。彼は一体どんな表情をしているのだろうとふと思ったからだ。ダンゾウはそんな小雪の瞳を捉えた。時々不思議に思う。自分は彼が生まれた里に、同じ里に生まれた事を。この事が恐らく、自分をこれ程までに動かしている。
『死ぬ時は多分、何も感じない』
ダンゾウはそう言った。安らぎさえ感じるかも知れない。小雪は彼の瞳から顔岩へと視線を戻した。
『この戦争が終わったら、』
ダンゾウは口を閉じた。小雪は一瞬俯いたが、黙ったまま彼の隣にい続けた。この戦争が終わり、お互い生きて終戦を迎え、共に生きる。それは身を裂かれる程の幸福。ダンゾウは未だに感じた事のないそれを想像し、不幸を散々に食い散らかした命を震わせた。

自分の嘸かし情けのない顔は、閉じられた彼女の瞳に映る事はない。我が陶酔の時は一瞬であった。
彼女を背中に乗せ、ダンゾウは無我夢中で奈落の底から地上へと這い上がった。雨や泥で濡れた自分の身体は鉛のように重く、だが背負っている小雪の身体はとても軽く感じた。ダンゾウ、と直ぐ耳元で彼女が囁いた。何だ、と少し頭を後ろに動かすと、小雪がふっと笑った気がした。そして自分の肩に回していた彼女の両腕が宙にぶらりと下がった。それまで聞こえていた呼吸の音は止まり、ずっしりと一人の人間の重みを感じた。それでもダンゾウはそこから出るのを止めなかった。彼女がまだ生きていると思ったから。
地面に小雪を横たわらせた時にダンゾウは気が付いた。彼女は目を固く閉じ、少し開いた口の周りには血がこびり付いており、呼吸をしていなかった。ダンゾウはもう一度確かめた。泥だらけの男の手は彼女の顔を汚すばかりだった。
『小雪』
彼女の魂を涅槃へ導いてくれ。ダンゾウは小雪の額当てに手を置き、じっと彼女の顔を見た。顔に付いた泥が雨によって流れる。この彼女の美しい魂を涅槃へ導いてくれ。彼は一人、何度も繰り返し願い続けた。

お前があの時生かしたこの命、今ここで終わらせる。お前と俺が願った事、それを今ここで遂げる。俺は死を手に入れ、お前に近づく。
ダンゾウ、と自分を呼ぶ優しい声を思い出す。最後に聞いたのはもう随分と前だ。だが思い出せる。何一つ忘れないよ。いつもお前はこの心にいたから。

Hozier - Take Me to Church