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Earned it



彼女の、子どものように笑った表情をこの目に映す。君をこの上なく大切にしたい。いつもそう思う。随分と歳下の恋人は歳上を魅了する知性を持ち、そしてただ美しい。仕草一つ一つに釘付けになり、時々何を考えているか分からない表情にどうしようもない程心惹かれる。彼女以外何も見えなくなって、何も考えられなくなった。まんまと私は君の魔法に掛かった。これ程までに高鳴る胸の鼓動を私は知らない。自分から奪い取った眼鏡を持つ彼女の左手を掴む。総一郎が彼女の唇を奪うと、彼女の髪から漂った香りが肺に拡がった。微かな潮の匂いもして頭がくらくらした。もう既に私達は二人だけの世界にいるのだ。

愛しい人の名前を呼ぶ。だが声にする事は出来ずにどんどん内に溜まっていく。幸せを感じると同時に不安もこの身に忍び寄る。彼女に恋い焦がれ始めた時に望んだ事叶った。だがまるで実感がない。ずっと夢を見ているようで、頭が熱でぼんやりとしている。君もそうなのか?いや、そうではないよね。
「総一郎さん?」
彼女の声が、大好きな声が心臓を更に奮い立たせる。もっと名前を呼んで欲しい。もっと私の名前を。総一郎は彼女の手を取り、自分の頬へと寄せた。両目を固く閉じ、ただ彼女の体温を感じる。君の全てを知りたい。君はただ私の想いだけを知っていればいい。だが私は君の全てが知りたい。君は今まで、私と出会うまで、何を思いながら生きて来たんだ。

唇を離した途端に聞こえる波の音。誰もいない、薄暗い朝の海。私達の世界の一つ。彼女の右手に重ねた左手はそのままに、総一郎はゆっくりと瞼を開けた。霞んだ視界の中にハッキリと見える彼女の全美な顔。揺れる前髪から覗く瞳。その瞳に映る自分。彼女は確かに自分だけを見ている。凍りついていたものが段々と溶けていく感覚。独りで、途轍もなく寂しかった今までの時間。それらを全てこの海に流す。これからだ、生きるのは。総一郎は顔を少し傾け、もう一度彼女の唇にキスをした。通った鼻筋から伸びる眉毛の直ぐ下に綺麗に彫られた目の形。その目が閉じられた。君に全てをあげる。君が望むもの、全て。

好きです、と吐息と共に総一郎は言った。これまで何度伝えたか分からない。だが言う度に何故か苦しくなる。幸せな筈なのに。愛して止まないひとが目の前にいるのに。その耐え難い苦痛は心臓へ行き、ドクリと震える。まるで火が点いたみたいに熱くなり、血が全身に勢いよく流れ出す。吐血しそうになる程に。そんな事、君は経験ないだろう。君は好きだと言わないひとだから。君はこの心を手に入れた。だが私は。私は君の心を手に入れたのか。

The Weeknd - Earned It