×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

Immortal beloved



医療忍者が自分に向かって何かを叫んだが構ってはいられない。俺はただ走った。一瞬視界に映った小雪の姿目がけてふらつく脚を必死に前へ出す。辺りが忍でごった返しているのを両手で掻き分け、彼女の元へと急いだ。幸いな事に小雪が俺の存在に気づき手を振っている。その姿を見て俺は一先ず胸を撫で下ろした。開戦すれば会える確率は低い。だが勢いが余り、小雪の足元へ向かって俺は勢いよく転がり込んだ。バサッと土煙が舞い、頭上にある太陽の光で思わず目を細めた。だが俺が舞い上げた小さな土は宙で止まり、身体に纏わり付いていた土も離れていく。逆光で表情が見えない小雪が差し伸べてくれた手を掴み、俺は立ち上がった。
「もうバテたんだって?」
「戯け」
彼女が意地の悪い表情を見せた。咳払いをして俺は小雪の額当て──"忍"とかかれた──を指で軽く叩いた。言いたい事が山程ある。だがどれも口からは出ない。ただ目の前にいる小雪の姿を記憶している。最後かも知れないのだ。この瞬間が、自分の人生において彼女と共にいる最後の時間かも知れない。だが何も出来ない。このままずっと時間が止まればいいのにとさえ思う。この世界で二人きり。誰かを殺す事も、誰かに殺される事もない。ガイはその考えをすかさず頭から振り払った。
「部隊、離れたね」
そう言って目を伏せた。小雪の左手を右手で掴んだまま、俺は彼女の肩に額を乗せた。そして呼吸をし、彼女の匂いを肺に入れる。今から血生臭い戦場に駆り出る。忘れないように彼女の匂いと体温を己に焼き付ける。小雪の存在を己に刻み込む。だがいつか、これらを忘れる時が来るのだろうか。終戦を迎える事が出来たとしても、お前が死んだら。お前が傍にいなかったら、きっと忘れるだろう。存在を忘れる事はなくとも声を忘れ、そして笑った顔も、さっきの意地の悪い顔も曖昧になっていくだろう。もしお前が忍ではなく、一般人であったならば。ガイはその考えをすかさず頭から振り払った。
「ああ。だがお前なら大丈夫だ」
俺は顔を上げた。そして笑って見せた。言葉なんて何の役にも立たないと痛感しながら。
「またね」
指が離れた。ガイの男らしい手。分厚くて、大きくて、日に焼けて、血管が浮き出ている手。そして初めて見た、彼の作り笑い。小雪は恋人に背を向けた。そして前を向いた。
恋人の声を噛み締める。俺は、幸せだったよ。この俺を幸せにしてくれてありがとう。この俺にお前の時間を捧げてくれて。言わなかった言葉を吐息と共に流す。さようなら天使、我が心の。我が人生の。俺の全て。
涙で視界が歪んだが、構うことなくそのまま歩き続けた。泣いたのなんていつ振りだろうか。自分は強くなったと思っていたが、とんだ間違いだ。我が不滅の恋人、幸福はあなた以外になかった。さようなら我が不滅の恋人、この心が崇めた人。