×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

雑記



*現パロ、性的表現あり


荒い息遣いと眉間に皺を寄せている彼の表情にまた嬉しくなる。普段澄ました顔をしているが彼も男で、性欲というものを持っている。それを今自分だけにぶつけられていると思うと途轍もなく嬉しい。快楽に対し理性をもって耐えるのを辞めた彼を見れた事が嬉しい。彼のペニスを根元まで挿れられ、彼の上半身と自分の上半身が密着する。普段彼は視線を余り合わせてくれないが、セックスしている時だけ何も見逃さないかのように凝視してくる。彼のひと突きひと突きがゆっくりしていて力強い。生意気な男だと思う。そして彼は自分の首に私の両腕を回させるのが好き。手を握って欲しいのにな、と思いながら彼に従う。ダンゾウ、ダンゾウと彼の名前を呼ぶと、彼は親指で私の頬を撫でた。


椅子に座り、正しい姿勢を保ったまま本を読んでいる後ろ姿が視界に入る。私はコップに淹れたお茶を飲みながら彼の隣にある椅子に座った。そしてダンゾウの左太腿の上に右片足を乗せた。今度ソファー、買いに行こうかな。どうせ買うなら高いやつが欲しい。ダンゾウが私を見て静かに本を閉じた。
「ちゃんと髪を乾かせ」
私は黙ってタオルをダンゾウに渡す。左手で受け取ったダンゾウは私の足を持ち上げ、椅子から立ち上がった。私は足をそのまま椅子の上に置いて少し下を向いた。
「今度一緒に家具見に行こうよ」
「分かった」
「いつ空いてる?」
「来週の日曜」
「土曜日は?」
「会議だ」
「じゃあ土曜日の夜泊まってよ」
酷く優しく髪から水滴を抜かれる。分かった、とダンゾウが言うのを聞いて、彼の少し濡れた右手を握った。


規則的な呼吸。それを一本の指で確かめる。そして小雪の胸の上に左耳を当てた。規則的な鼓動。俺はもう一度彼女の寝顔を見、部屋の電気を消して寝室から出た。


お前の家に行くと自分から言えない。いつもあいつからメールが来て、俺はそれに返事をする。俺達はメールや電話を余りしない。いつ会えるかという事をメールでするだけだ。だが俺は電話くらいしたい。一日の終わりぐらい、短くても良いからしたい。だが自分からは出来ない。どうしたの?何かあった?と言われたら何て答えたらいいのか分からないからだ。ポケットからスマホを取り出し、画面に表示した小雪の電話番号を眺め、結局俺は何もせずまたポケットの中に戻した。


両手に重いレジ袋を持ちスーパーを出た。太陽が沈みかけているとはいえ暑い。そしてまだ今からあの坂を登らなければいけない。夜景が綺麗だという事以外余りいい事はない。すると道路の向こう側にダンゾウの姿を見つけた。自分の事を先に見つけたらしい彼が小走りでやって来た。
「早いね。ダンゾウが来る前に料理作っておこうと思ったのに」
「そうか」
彼は私の両手から荷物を取り、黙って目眩のする坂を登り始めた。見ると首元に少し汗をかいていた。


音楽を一切聴かない自分とは対照的に小雪はいつも音楽を聴いている。機械で流したり、イヤホンで聴いたり。だが持っているCDは少ない。ドライブする時はその数枚のCDを持ち込み繰り返し流している。小雪の流す音楽は嫌いではない。寧ろ好き、だと思う。聞き取る事の出来る部分を訳しながら歌詞を頭の中で繋げていく。彼女の一部になったように、自分の一部になるように。


名も知らない花に目を奪われる。花屋には色んな種類がごった返していたが、何故かその花だけを見てしまう。頭に浮かんだのは小雪。花なんか、喜ぶのだろうか。何かプレゼントすると小雪は喜んでくれている、と思う。花はどうだろうか。何となく想像はつくが。


ダンゾウの大きな左手を握る。彼の横顔を見上げる勇気はないから前を向いてる。ダンゾウも黙って前を向いている。そして彼の指が私の手の甲に触れた。信号が青に変わり歩き始める。雨が上がった後で地面は濡れていた。


朝食の準備は彼がしてくれる。朝起きるともう既に朝食を作り始めているか、丁度終わっているか。パジャマ姿のままダンゾウのそんな後ろ姿を見る。彼の為に買った珈琲の機械も気に入ってくれたらしく、それにもスイッチが入っている。
「ダンゾウ、おはよう」
「ああ」
振り返って私を見、短く返事をした。そして傍に置いてあったオレンジジュースの入ったコップを取り、腕を伸ばし私に手渡した。


今にも眠りに落ちそうなトロンとした目を見て、ダンゾウはテレビを消した。
「ダンゾウ、ちゅーして」
そう言うとダンゾウは手で前髪を上げ、わたしの額に口付けてくれた。わたしは両手を伸ばし、身体を少し屈めたダンゾウの首に腕を回す。
「すき、」
彼といると「ああ、わたし生きてるな」っていうよりも、「気付かなかったけど、もしかしてわたし死んだ?」に近い。それは何も悲しいとか苦しいとかじゃなく、楽園にいるような感覚。温かくて、眩しくて、余計な物は一切ない。すき、ともう一回言うと、ダンゾウは俺もだ、と小さな声で言った。ちゃんと聞こえてるよ、明日だって覚えてる。

Cautious Clay - Cold War