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From Eden



お土産だと言われて任務帰りのガイにパンパンの紙袋を押し付けられた。任務先で立ち寄った店で買ったらしい。この男はどんな任務だろうと必ず何かしら買わないと気が済まない。本人曰く、一度買い出したらあれもこれも目についてしまうらしい。今回もその癖が発揮されたみたいだ。小雪はお礼を言って別れた。重みのある袋を改めて両手で抱え、返しの物を頭の中で考えた。
私室の椅子に座り、早速袋の中から一つずつ取り出してみた。入っていたのはお菓子や密封された漬物、絵葉書、本や匂い袋だった。絵葉書は木箱に入れた。そこにはガイから貰った絵葉書や切手、それに自分が集めたものも入っている。匂い袋は机の上に立ててある本の横に置いた。すぐ目につくところ。誰もいない部屋だ、と大いに表情を緩ませながら最後に取り出したのは小さな置物だった。丸い大きな黒目をした緑色の亀が赤色の座布団の上にちょこんと乗っている。手の平サイズのそれを小雪は透明な箱からそっと出した。座右の銘や写真立て、小物すら置いていない(ガイの部屋はこれら全てある)何の面白味もない私室の箪笥の上にその亀を置いてみた。ガイの忍亀みたい。小雪は指先で触れた。

二人の休日が揃うことは滅多にない。ガイは担当上忍で、自分だけなら未だしも三人の愛弟子の訓練にも積極的に付き合う。その時間を小雪は任務に当てている。暇よりもやはり何かしている方がいい。定期的にやって来る国境警備の任務を無事にこなし帰路に着いた。何もせず、ただ国境付近で気を張るのも中々疲れる。門を潜り、里の平和な雰囲気に浸りながら既に閉店した暗い通りを見る。居酒屋あたりは開いていたが、知人と会って話す気力は今はない。諦めて帰ろう。
小雪は靴を脱いだ。冷蔵庫を開けたが案の定何もなくそれを勢いよく閉め、私室に行き、忍具と額当てを定位置に置いた。するとその隣に見慣れない物──ああ、この前ガイに貰ったんだっけ──がこちらをじっと見ている。脳裏に浮かぶ、緑色のおかっぱ頭の男。今から行っても里を逆立ちで500周、とかでもして爆睡しているに違いない。例え叩き起こしたとしても怒らずに「おかえり!ご苦労だったな!怪我はないか?よおし、じゃあ今からマイト・ガイ特製カレーを作ってやろう!元気百倍!俺も一緒に食う!」とか言うだろう。まあ行かないし、叩き起こしたりもしないが。でもこの前会ったのっていつだっけ?
丁度その時インターホンが鳴った。時計を見ればもうすぐで日付けが変わる時刻。小雪は玄関へ走って行き、扉を開けた。玄関の電灯で照らされていたのは満面の笑みを浮かべたガイだった。恋人になってからというものの彼は時刻に構う事なくやって来るようになった。まあ別にそれはいいんだが。珍しいことに緑色ではない服を着ている。半袖の白いシャツに黒色のズボン。そして両手で持っている物は、鍋。
「おかえり!ご苦労だったな!怪我はないか?お前の為にシチューを作って来たんだ!シチュー好きだったよな!怖くて味見なんかしていないが多分大丈夫、」
黙って口を手で塞ぎ、そして腕を掴んで家の中に引きずり入れた。そうだ、いつも彼から来てくれる。任務から帰って来る度に彼は会いに来てくれる。何か持って。それはガイが作ったご飯だったりお菓子だったり、花束だったり……。小雪はありがたくその鍋を受け取り火にかけ食べた。すると目の前の男も一緒になって食べ始めたものだから、小雪はガイに気付かれないように笑った。高級な店で食べるものより特別美味しかった。
ガイは目覚まし無しで起きる。そしてどんなに疲れていようとも同じ時間に起きる。普段は一応かけて眠るが、いつも鳴る直前に起きる。今日もそうだった。部屋を見渡して時計を見てみるといつもの時間。ガイはすぐ隣で眠っている小雪を起こさないようにベッドから出た。まだ陽は出ておらず薄暗い。そこで箪笥の上にある、自分が小雪にあげた亀と目が合う。一目見て気に入った物だ。──おお!そこにいたのか。俺のいない間、小雪を宜しくな。ガイは顔を洗い、ランニング用の服、を持って来ていないため昨日の服に着替えて小雪の家を出た。下忍の頃からの習慣だった。
小雪の家に戻ると彼女はまだ夢の中だった。シャワーを借り、髪をタオルでゴシゴシ拭きながら、自分用に開けてくれた箪笥の引き出しから新しいシャツとズボンを出した。ふわりと香る小雪が使っている洗剤の匂い。それらを身に付け、朝飯を作るべく冷蔵庫を開けたがそこには何もなかった。買い物に行くかと考えたがまだ店は開いていない。ガイは店の開く時間帯まで彼女の隣で寝顔を眺める事にした。小雪は身体を内側に向け、少し丸まって眠っている。任務で疲れてるんだ、起こしては駄目だぞと思いながら、彫りの深い顔に流れる前髪を耳にかけた。全く不思議だ。まさかお前が俺の恋人になってくれて、そして俺の隣にいてくれるなんて。ひとりで生きていくと俺は思っていたのに。
根にいた奴で面白いのがいるとカカシから聞いたのは俺がまだ下忍の頃だった。陰気なイメージしかない”根”というワードに少々身構えつつ会ったのが小雪だった。当時の彼女は今とは違い、周りと自分との間に絶対的な壁を作っていた。雰囲気も怪しげで近寄り難く、才能もあって、とても同い年だとは思えなかった。この子は本当は天使で、気まぐれか何かでこの世界に降りて来たんじゃないかと幼心にそう思った。
昨夜の小雪の声が蘇る。眠りにつく前に聞いた最後の声がお前の声だった。俺の大好きな声だ。これから俺の人生が終わるまでずっとそうして欲しい。休日の朝にいつもそう思う。ああ、本当に、自信がなくなる。お前を見ていたら。もしお前が俺の前からいなくなる事を選んだとしたら、それは俺の居場所がなくなるのと同じ事だ。お前がいるから俺はここに帰って来る──ガイは目頭を押さえた。今は何も考えずにただお前の傍にいよう。好きだ。好きだ。
ガイは小雪の乱れた髪に顔を埋めた。なんでこいつはこんな良い匂いするんだろう、と思いながら引き続き可愛らしい寝顔を眺めているとパッと両目を勢いよく開眼し、ガイは恋人から渾身の頭突きを食らった。

行ってくるよ。小雪は指先で小さな亀にそっと触れた。脳裏に浮かぶ、自分に心底酔っているおかっぱ頭の男。…人の事、言えないか。また当分会えないけど、我慢だ。留守番宜しくね。

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