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Ain’t ever been more for real



随分と前に買った、封を開けていないままの煙草の箱を机の上に置いた。前に彼が家に来た時にこの煙草を渡そうとしたが結局渡さなかったのだ。煙草とは無縁の人間の部屋にはそれが浮いて見えた。考えてみればこれは火がつけば白い煙となって消えてしまう物である。サラは彼にあげるのならばちゃんと残る物が良いと思ったのだ。彼の好きな物で、あって困る物でもない物。サラは頭を抱えた。
異性に物をあげるなど今までした事がなかったが、誰からの助言も受けずサラは自分で考えた。メンズ雑誌を漁りまくり、店から店へと足を運んだ。終始頭に浮かぶのはサミュエルの端整な顔立ちとスラリとした長身。タキシードやウェイター服、何でも難なく着こなしてしまう彼だ。サラは特別良い物を選んだ。ティアドロップ型のサングラスである。店を出て、紙袋を嘸かし大切に抱えている自分を指差して大声で笑ってやりたい。今までは異性から貰ってばかりだったというのに。サラは横にある鮮やかなサフランカラーの紙袋を見た。そしてそのままその煙草を机の引き出しの中に仕舞った。彼が特別好きな物。銘柄も同じ。この匂いをいつも漂わせ、自分の名前を呼んでくれる。彼が今ここに居るような気がした。
贈るといえば花だった。何故か女性は花を貰うと喜ぶものだ。だがサミュエルはその選択肢を真っ先に消した。花は綺麗でロマンチックな物だが、自分にとってそれは都合が悪くなった時に持って行く物でしかなかった。くだらない幸せだ。今ではそう思う。サミュエルはブラウンの瞳にサラを思い浮かべる。これだけ自分を本気にさせたものが今まであっただろうか。この煙のように掴みどころのない、得体の知れない人間だと思えば幼さのある、人懐っこい笑顔を浮かべる女。あの目に自分を映した時の、あの満足感といったら。"一般的な幸福"とは無縁だった男に、お前はよくその足を止めてくれたな。お前となら、これから一緒に生きることになっても悪くないと思える。お前の為なら、どんな犠牲も厭わないと思えるよ。サミュエルは口からゆっくりと白い煙を宙に登らせた。そしてポケットからある物を取り出した。イエローゴールドのチェーンにダイヤモンドとラピスラズリのヘッドを持つネックレス。サミュエルはサラがジュエリーを身に付けているところを見た事がなかった。だが彼女がもしこれを大切にしてくれたら、素直に嬉しいと思う。

「良い物持ってんじゃん」
弟の楽し気な声がした。サミュエルは振り返った。
「勝手に触るな」
弟が今手に持っているのはサラから貰った物だった。ケースを開け、色んな角度からまじまじと観察している。サミュエルは折り畳んでいたマップやらノートを近くの机に放り投げ、大股で弟に近寄った。
「なんでこっち掛けないんだ?格好いいのに」
「すぐ壊すから安物を掛けとくんだよ」
サミュエルの手に戻ったケースとサングラスを見て、なるほどとネイサンは溢した。トレジャーハンターにとって大抵の物が消耗品と化す。ネイサンは兄の顔を覗き込んだ。
「さては恋人からの贈り物だな?」
サングラスをしていて良かったとサミュエルは心底思った。こいつに表情でも読まれてみろ、全くもって面白くない。サミュエルはそのサングラスに弟の手垢が付いていないか確かめて木製のケースに戻した。物を大切にする精神を兄はやっと身に付けたみたいだ。ネイサンは銀色の瞳を持つ彼女を思い浮かべた。

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