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Skies don’t disappear



両膝が地面につく音。その次に身体が地面に倒れる音。小雪はポッカリと穴の空いた天井を見上げた。そこから姿を見せる赫赫と照る太陽に思わず目を細めた。こめかみから大粒の汗が輪郭に沿って流れ落ちる。小雪は深く息を吸うことに努めた。こっちは瀕死なのにも関わらず、太陽は変わらずそこにある。その内嗅覚を失ったかのように血生臭いにおいも消え、微かに吹いていた風の音さえも消えた。小雪は胸に刺さったクナイに目をやった。幸いなことにその痛みさえも既に感じない。手についた血は乾き始め、視界も霞んできた。眠気が襲ってきたのだ。小雪は唯一無傷な両脚で身体を支えたが、そう長くは保たなかった。
キスをするときガイは必ず目を閉じる。それも固く閉じているせいで少々眉間に皺が寄るのだ。何処か苦し気な、切な気な表情に見える。小雪はうっすらと目を開けてそんな彼をこの目に映した。恐らく自分だけが見たことのある表情の一つであり、彼が自分のことを好きなんだと思える瞬間でもある。彼はいつも言葉にしてくれるが。そしてガイの目が開けられた。漆黒の瞳が自分を捕える。唇は自然に離れた。
『…こういう時は目を閉じろ』
ガイは目を伏せて彼女から視線を逸らし、息の混じった声でそう言った。少しばかり顔を紅くして、小雪の頬に触れていた温かい手を下ろした。
『脳裏に焼きつけておこうと思って』
『心配しなくとも俺はそう簡単には死なないぞ』
ガイはポリポリと頭を掻きながら、少し歯を見せてそう言った。確かにそうかも知れない。あなたも私も上忍で、実力もあれば経験もある。けれど命なんて呆気ないものだ。勿論自分も色んな人を亡くした。だがこの心には彼がいる。これが弱さだ。自分のたった一つの弱さだ。彼が死んで彼を思いながら一人で生きていく覚悟なんてしていないし、したくない。そんな人生、生きるのをとっとと辞めた方がいい。
『そんな顔をするな』
そう言われて小雪は笑って見せた。こんなこと彼に言うと怒られるかな。ぎこちない彼女の笑顔にガイは言葉を失う。不安なんだろうか。漠然としていない、明瞭な不安を感じているんだろう。
『お前をひとり残したりしない』
馬鹿な考えは捨てろ。ハイバリトンの声が耳に届く。ジワリと涙が込み上げるのを感じたが、視線を逸らさずに彼の目を見た。真っ直ぐで常に迷いのない目だ。小雪は微かに手を震わせた。そんな言葉信じられないよ。彼も分かっている筈なのにそんなこと言うんだ。彼をひとり残しても、彼は生きられるまで生きるだろう。強い人だから。前に進むに違いない。
『だからお前も、』
だからお前も俺の知らぬ所で死ぬな。この身に刻み込んだ彼の声を、ハイバリトンの声を何度も繰り返し流した。あの言葉は今思えば、彼なりの懇願だったのかも知れない。彼も自分のように馬鹿な考えを持っていたのかも知れない──好きだったなあ。本当に。彼がくれる無償の愛をもっと感じていたかった。彼は感じてくれていただろうか。私は私なりに彼を愛していたことを──火でもついたような、熱を持ち始めた自分の心臓に小雪は笑った。どうせ死ぬなら彼と死にたかった。彼の隣で。けれどもし生きられるなら、この心臓が動き続けてくれるなら、この命ある限り彼と生きたい。彼の傍で生きたい。これからも。小雪は目を閉じた。少し眠ろう。そして起きたら、彼の元に。

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