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Heard by God



光学照準器に彼のタトゥーが映る。鳥が四羽。どれも翼を広げている。背後にある赤い太陽には雲がかかる様子はない。汗が出る前にここから離れよう。そう思いながらサラの目が覗く照準に敵の頭を合わせた。
吸殻が灰皿に一つの山を作っている。マジックのように彼は煙草の箱をどこからか取り出す。酒の瓶もあちこちに転がっていて、皿の上にはまだ食べ物が残っていたがもう食べる気はないらしい。サミュエルの向かいに座っているサラは戸惑った。これは人として一言もの申した方がいいのだろうか。酒も煙草も身体に悪い。程々にした方がいい。食べ物は残さず全部食べる。いろいろ頭に浮かんだがどれも声に出ることはなかった。サミュエルの虚ろなブラウンの目と視線が合えば最後。見て見ぬ振りは出来なかった。改めて部屋を見渡してみても酷い。サラはこのまま自分の部屋に引き返してみても、安眠など出来そうもないと思った。部屋から毛布を持って来てネイサンとサリバンに掛けた。二人はソファーで眠っていたが、サミュエルは半分意識を飛ばした状態で未だに煙草を吸っている。腰を上げたついでに散らかった部屋を掃除し、やはりサラは彼の指から煙草を抜き取った。
よく笑う男だと思った。笑うということはよく喋るということで、思った事がすぐ口から出る癖がある。兄弟でいるときは脊髄反射のように会話していたように思う。サラは歳の離れた姉の事を思い返してみたが参考にはならなかった。そんな彼だがふとした瞬間にあのブラウンの虹彩を持つ瞳を鋭くさせる時がある。サラの脳裏にはその表情が焼き付いて忘れる事が出来ない。けれどすぐにまた気の緩んだ表情に戻るのだが。酒も煙草も博打もしないと誰かから聞いた彼にお前は聖人かと言われた事があった。聖人といえばサミュエルもネイサンも聖人名である。確か神に聞き届けられた子という意味だったか。そう思いながらサラは目の前の男を見た。薄い反応に不満だったのか、彼は彼女の目の前で指を鳴らした。やはり聖人とは程遠い。
向かいに座ったサラの表情を読み取る事は出来ない。自分達が立てた騒音に腹が立っているのかも知れないしそうではないかも知れない。すると彼女は立ち上がり、腕をこちらに寄越した。その腕が俺らを生かしている。今過ごしている時間は言わば彼女からの借り物みたいなものだ。サミュエルは自分の腰に回された彼女の腕を見てそう思った。力仕事には頼りないが、彼女は地上からは到底見えない程の高台から標的を一掃するのだ。まるで神の起こす異変のように大きな音を立てて標的は気付かぬ間に御陀仏である。全く恐ろしい。そんな人間離れした奴が自分をベッドまで運ぼうとしているのだから笑える。明日の事を危惧しているのか、ただ俺の事を心配しているのか。まあどちらも同じだが。ブラウンの瞳が銀色の瞳を捕らえた。サラは珍しく視線を逸らさない。いつも俺はその目に自分だけを映す事だけを考えている。いつの間にか俺はその双眸に捕らえられていたんだ。そんな事、お前は気付かないだろうが。サミュエルは彼女の顔にある傷を指でなぞり、意識を飛ばした。
光学照準器に彼のタトゥーが映る。トランプが四枚。それと幸運というスペル。大きな銃声の音が連続で数回鳴り、辺りが静まり返ると彼は銃を仕舞い、サラのいるであろう方角へ目を細めた。恐らく彼女はまだスコープを覗いているに違いない。サミュエルは手を額につけ影を作り、少しだけ歯を見せた。