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Caribbean Sea, Nice



カリブ海。澄んだ蒼い海は見える限り続いていて、遠くにある水平線をずっと眺めていたくなる。本当に地球って丸いんだなあ!自分という存在はなんて小さいんだろう!わたしはひとり、美しいカリブ海の真ん中で、畏敬の念を抱いていた。でもそんなことを考えていたのはこの中でわたしだけだったらしい。航海に慣れた皆さんは目の前にある美しい海に目もくれずテキパキと自分の仕事をこなしていらっしゃる。本当に頼もしいなあ。
「ぐえっ」
今回で航海は二回目だけど多分、というか一生、わたしは船には慣れないと思う。わたしは全然、船のことは嫌いじゃないんだけど、なんていうか、船がわたしを嫌っているんじゃないかって思える程に船が揺れる。ほら、船に女を乗せると災いが起きるとかなんとか──。でもそんなこと言ったってわたしは仕事で来ているんだし、船よ、そこまで揺れる必要はないんじゃないかな──カリブ海、クソったれ。燦々と輝く太陽の光を反射して海も負けずと輝いている。それが余計わたしの腹を立たせた。
「おい」
大砲に四肢を巻きつけるようにして捕まっていると誰かに呼びかけられた。この状況で手伝えることなんてなにもないですすいません、と言おうとしたけどまた船がぐらついた。くそう!と思いながら力を振り絞って、こんな状況の中わたしを呼んだのが誰か見てやろうと、一生その顔を覚えておいてやるからなと、見てみたらヘイザムさんだった。そこにいたのはいつも通り、涼しい顔をしたヘイザムさんだった。船が思いっきり揺れているのに体勢を崩さず立っているなんてヘイザムさん、あなたは超人ですか、とこんな状況でも私は呑気にそう思ってしまった。
「っぎゃ、!」
もう一回大きな波が来た。それに逆らった船は大きく揺れ、大砲に巻きつかせていたわたしの両腕は波の水飛沫のせいで滑り、そして空気を掴み、ああ、わたしはこのカリブ海で死ぬんだ──と最期、視界に映った、必死で舵をとっている皆さんに静かに別れを告げた。
「これだから女を乗せるのは嫌なんだ」
近くでヘイザムさんの声がした。ああ、神様がこんなところで死ぬ私に同情して、最期にヘイザムさんの声を聞かせてくれたんだ──なんて優しい方だ、だったらわたしが死なないようにして下さったらよかったのになあ。上手くいかないもんだなあ。するともう一度「おい」と言われて、それでわたしは一気に現実に引き戻された。ハッ!と目を開けると、なんとヘイザムさんが私を抱きかかえてくれているではないか。本当にこの人はすごい人だなあ!なんかすごくいい匂いするし!優しい気分になったのも束の間──よくよく見るとなんかヘイザムさん、不機嫌な顔を、している、ではないか。ボッとわたしの顔はみるみる内に紅くなって、どうしようも出来ないわたしはただヘイザムさんを見上げたまま固まってしまった。なんかわたしすごい迷惑かけてるけど、それよりも恥ずかしい!
「!えっええと、あの、」
「ハァ……下にいろ。落ちても知らんぞ」
そう言ってなにもなかったようにあっちに早々と行ってしまうヘイザムさん。えええ、なんだそれえええ。わたしはがくりと項垂れた。けれどついさっきの光景を思い出すとすぐにまた自分の顔に熱が集まってくるのを感じた。それを隠すようにして、言われた通り下へ全速力で降りた。誰もいないのを確認して、そして物置的な狭いところに座り込んで、バクバク音を立てている心臓を必死に静めようとしたけど、結局はあの光景──ヘイザムさんが海へ落ちるわたしを守ってくれた──を思い出し、そしてまた顔が紅くなるというのをその場で何度も繰り返した。次からは絶対、絶対にヘイザムさんに迷惑をかけないぞ!そう決心するも、わたしは口が緩むのをどうしても止められなかった。だって、仏頂面で、冷徹で、強い──そんなヘイザムさんがこんなわたしを守ってくれたんだもの。ヘイザムさん、すきっ!