×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

FALL



ゴッサムを一望できる階の窓から落ちている。今は夜だ。厳密に言うと落とされた、のだが、ゴードンはただ静かに重力に身を任せ落ちている。叫び声なんて上げたところで誰も自分を助けることなんて出来ないだろうし、この高さだと即死だろう。だから恐怖はないに等しい。地面に着くまでの長い間、ゴードンはある二人の男のことを思った。一度でいいからゴッサムの空を飛んでみたいとゴードンは思うようになった。バットマンの姿を見たときから。彼は毎晩この眺めを見ていたんだな──彼は酷く孤独だ──ブルースと似ている。ブルースの表情がゴードンの脳裏に浮かんだ。これは罰だろうか。同時に二人の人間を気にかけるなど罰当たりにも程がある。ゴードンは強い衝撃に声が漏れた。そして落ちる速度が速くなった。慌てたゴードンは閉じていた瞼を開けると、バットマンがゴードンの身体を抱えていた。助けに来てくれた──と気づいた瞬間、ゴードンに恐怖が芽生えた。彼も命取りになる。ゴードンは彼に怒鳴りたかったが、下を見ると地面はすぐそこにあった。目を瞑った。彼が一緒にいるという恐怖に、目を瞑った。死ぬなら自分だけでいい。彼だけは生きてくれと願った。
「そんな、」
二人は運よく車の上に落ちた。ゴードンがゆっくり瞼を開けると、自分ではなく彼が、全打撃を受けたのが見てわかった。ゴードンは息を呑んだ。二人の周りの深い闇が彼だけを連れて行ってしまうような、そんな気がしたのだ。ゴードンはバットマンの頬に手を添えて、バットマンの唇を濡らした。君のほうが、私より生きる価値がある。
「泣くな」
そんなの無理だよ──ゴードンはバットマンの目を見て安堵すると、彼の硬い胸に額をつけた。そこからはちゃんと心臓の鳴る音が聞こえた。
「助けてくれなくてもよかった、」
自分のせいで君がこんな目に合うなんて、耐えられないんだ。泣き喚くゴードンの背中をバットマンは優しく撫でた。
「何度でも助ける」
この命ある限り、とバットマンはゴードンの乱れた髪にそっと唇を寄せた。