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You’re a hater too



*性的表現あり

何の為か皆目分からぬ会議が終わり、騎士団の本拠地を辞そうとした時の事である。スネイプは不意に息を呑む羽目となった。彼の視界に入ったある二人──サラと最近騎士団に加わった男──が非常に近寄って互いの顔をじっと見詰め合っていた為である。 いや、実際にはそれ程に近寄ってはいないのだが、スネイプの目にはすっかりそう映ったのである。彼女と男はいつ自己紹介を済ませ、親しくなったのかは知らない。だがスネイプが前にその男を見た時、こんな立派な身なりをした人が、事にこんな眩しい程の色艶の女性が、自分に優しい言葉を掛けてくれた事など今までにあっただろうか、と言わんばかりの顔を浮かべているのを見た。その心情が声と共に外へ出て、スネイプに直接伝わって来る程に明白であった。サラは、始めは顔色が悪かったのが、今や血行が良くなった男の頬を見詰めていた。軈て彼女は男との会話の中で爽やかな笑顔を浮かべてクスクスと笑い出したのである。前に見た二人がそんな風であった為、今回も恐らくそうであろうと踏んでいたスネイプであったが、少しばかり予想は外れた。男はというと、目の中まで真っ赤にしないではサラを見る事も出来ないようであった。その癖、片時でも彼女から目を離すと、もう生きている気がしないといった感じであった。男は自分がどぎまぎしているのに気が付き、それを押し隠そうとするのだが、尚更どぎまぎするのだった。 サラはたった一度、ちらりと男を見た切りだった。男は最初の内こそ、その慎重な態度を楽しく思っていたが、その視線がたった一度きりで一向に戻って来ない為に軈て不安になって来た。彼女は俺を愛してはくれないのだろうか?ああ、俺はあの人の特別にはなれないのだ。だって彼女はこんな俺とは違い、あんなにも洗練されているのだから。男はサラに挨拶をした時、彼女の手をさり気なく握った。遠くからそれを見ていたスネイプは、そんな法外な愛の徴に驚きながらも男の顔を観察した。男は彼女の顔を惚れ惚れと見ていた。というのは、仕事終わりの疲れたような顔がとても綺麗に見えた為に、男はずっと伏目のままである彼女の美しさを細かに味わっていたのである。彼女は……あの男が触れる事を許したのだろうか。男の見た目は良い。清潔感があり、身体も大きく魅惑的な目を持っている。それとも、これから身体に触れる事を許すのであろうか。サラは処理と愛を分ける為に、処理と思っている相手から愛を向けられると捨てる。あの男は彼女を自分のものにしたいと思っている。それは明白だ。しかし彼女の方は一体何を考えているのか分からない。いや、もしや彼女も肉体関係を持つ事を望んでいたら?男の手を握り返し、それらしい眼差しと言葉を掛け、人目のない所で股を開く事を望んでいたら?前にサラと一夜を過ごした時、彼女はスネイプの性器を扱き、それをあの赤色の唇に当て、咥えた。彼女はするだろうか、この男が相手ならば。あの豊かな唇から覗かせる熱い舌で陰茎と睾丸を舐め回し、あの淑やかな手で忙しなく上下に扱く。そして己がやっと触れた胸や尻を露にするだろうか。下着に指を入れ、外し取る男の太い指、白い肌を撫で、太腿を力強く掴み、痕を残していく男の手。彼女はしゃぶるだろうか、自ら手を伸ばし、屈んで──彼女は良い女だ。それは違いない。だが……だが彼女の心を手に入れる事は出来ない。幾らあのような、感じの良い男であっても──しかしそれは真か?もしかするとあの男が彼女の心を手に入れるかも知れん。何故なら、あの男は人殺しではない。光の中を歩く人間だ。その事が、この私との違いである。サラの性生活は全くの不明であった。彼女に淫乱さは垣間見えないが、盛んに性行為に励んでいるようにも見え、だがその一方で殆ど致していないようにも見える。彼女は男の扱いに長けており、己のような性格に難がある男でもこうやって心を奪う事をする。与り知らぬところで、彼女は……そう考えている内に、彼女への叶わぬ愛が、憎しみに満ちて心の中で沸騰した。恐ろしい、物狂おしい憎悪が、突然スネイプの胸に滾り返った。奴だ、奴が私の敵人なのだ。私を苦しめ、私の生活を苦しめる男なのだ──これ程までにスネイプがサラを見詰めたのは初めての事であった。女というのは何という曲者だろう。一体何が嬉しく、そしてどういう本能から男を騙すのであろう。彼女の手が持つあの冷たさを、今あの男は感じている。彼女が振り払う素振りをせぬ限り、男はその手を離す事をしない。君は、眼前の男をそのようにして一体どうするというのだ。これが君の楽しみなのか?男の心を狂わせる事が?スネイプは思った。恋人或いは夫婦であれば、このような感情も芽生える事はないのだ。いや、契りを交わしても同じ事ではないだろうか。己に自信というものがない為に、罪を犯した犯罪者である為に、そして何より、サラという人間を真摯に愛している為に。

「真逆、私を待ってた?」
「ああ」
「言ってくれたら良かったのに。でも今日は仕事があって」
「召集か?」
「あの新しいメンバーを調べるの」
「もしや家に呼んだ訳ではあるまいな」
「今更でしょう」
サラは顔色一つ変えはしない。先程あの男に声を掛けられ手を握られようと、何の動揺もその顔には示さない。一方でスネイプは上手く隠せているだろうかと思った。怒りや嫉妬、眼前にいる女に対する狂わしい程の愛が顕になっていないか恐れた。だが今更にそんな事を考え、改めて演技する事も馬鹿馬鹿しいと思われた。彼女は彼と視線を合わせていたが、もう他の事を考えていたからである。今からサラはあの男と家で会う。調べると言うのは本当であろう。だが其処に彼女の感情が含んでいるかは分からない。だがあの男は彼女の手に再び触れるであろう。これは……これは確実な事である。彼女がその手を振り払う事を望むが、彼女は『調べる』と言った。その為なら何でもするつもりなのだ。
「止めておけ」
「私が……どういう事に怒るか知ってるわよね?」
「知っている。だが止めておけ」
「あなたもスパイだったから?」
スネイプは不覚にもサラの腕を力任せに掴んだ。周りに見えないように、だが彼の顔は僅かに歪んでおり、それを看取した彼女の顔もまた歪んだ。彼女が唯一怒りを顕にする事、それは他人が自分の管轄に入る事である。特に仕事に於いてはそれが顕著であり、その為にスネイプも今まで何も言う事をしなかった。だがサラを愛してしまった。もし彼女についての、また、彼女の身に何事か起りはせぬかという点についての絶え間ない思いさえなければ、恐らく彼は再び恋の甘美な夢想にすっかり身を委ねていたに違いない。だが彼女を巡る思いが絶えず鋭いガラスのように、心に突き刺さるのだった。
「……心配だ。それが分からんのか」
「その心配で人は救えない。これは必要な事よ」
勿論あなたの為にも。しかしサラはそれを声に出して伝える事をしなかった。もはや騎士団などどうでも良かった。本当はスネイプの為、たった一人で汚い重荷を背負わされている彼を守る為である。予想出来る危険は全て取り払う。自分の仕事は全て彼に繋がると信じ行動するべきであると彼女は思っていた。だがそんな事は一々口で言わなくとも彼には伝わっている筈である──スネイプがサラを愛していなかったら見抜けた事であった。しかしそんな簡単な事も、今の彼には出来ない。彼の頭には靄が掛かっており、周りが見えないのである。見えているものは眼前にいる彼女、彼女の気紛れで、己の全てを乱す軽はずみな行動であった。本当に!彼女は私の事など何とも思ってはいないのだ!そう思うとスネイプは本当に惨めな気持ちになって来た。
「何かあれば私を呼べ」
幾多もの男が君に愛を囁いただろう。君の胸にではなく耳に。だが私は君に何も囁いた事はない。一向に落ちる素振りを見せぬ君の元からその連中が去ろうとも、私が去る事はない。スネイプは問い質すようにサラの顔を覗き込んだが、彼女は彼の手を払い退け、返事をせずにその場を辞した。今までずっと彼の頭に浮かんで消えなかった疑問。何故彼女は己のものにならないのか。何故己は彼女を自分のものに出来ないのか。その疑問が齎す靄が、遂に彼の頭だけではなくその両目にまで膨らみ覆った。私の憧れ求める情の徴を少しなりともはっきり見せ、言葉に偽りのない事を明かしてくれぬ事には……如何に優しい言葉にも心は許せまい。スネイプの目にはサラが嘘を吐いているとは見えない。彼は愛する女と離れては直ぐに、彼女の身に何か起こりはせぬか、彼女が裏切りはせぬかと、途方もない恐ろしい事態をあれこれ考え出した。彼という人間は、それでいててっきり裏切ったに違いないと固く確信し打ちのめされ、絶望し切り、彼女のところへ駆け付け、にっこりと笑う明るい愛想の良いサラの顔を一目見ただけで、途端に精神的に生き返り、直ぐ様一切の疑いをなくし、嬉しい恥ずかしさを覚えながら自分で自分の嫉妬深さを叱るといった、正にそういう性質の嫉妬をする男であった。スネイプは佇立したまま、考えを巡らせた。女一人の為に身を滅ぼした人間は五万といる。中々の男であっても──私も沢山見て来た。その度に馬鹿な男だと思い蔑んだものだが、今の私が正にそうだ、たった一人の女の為に、あの女の為に私はこの苦衷の中にある。このままでは私はどうなる……いや、策はある。彼女のところへ行くのだ。兎に角、あの女のところへ行く事だ……。

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