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A terrible beauty is born



*性的表現あり

「未だ私が怖いか」
スネイプが情欲に負けて譫言を言った。サラの左右に開かれた脚を肩に担ぎ、膝下の浮き出ている脛骨を指で撫でては唇を寄せた。裸の両足に彼の黒髪が掛かり、足指の間にそれらが入ったりして益々乱れた。顔の殆どを覆い隠す黒髪の影にある、僅かに開かれた口、眉間に寄せられた皺、熱を孕み細められた目。何と色のある表情をするのだろう。この世の何一つ、祝福する事をしない男が浮かべる性的なものはしっとりとした情趣がある。未だ怖いかと彼は尋ねた。確かに他人から愛を向けられるのは怖いが、彼の方こそこの私を恐れているに違いない。もっと彼を傷付けたら、どうなるだろう?サラはふと思った。彼の心を更に燃え上がらせると、苦しみの余り彼はその恋心を捨てるだろうか。それとも益々私を愛するようになり、狂うだろうか。そうなった時、彼は一体どんな事を仕出かすだろう。私を痛み付けるだろうか。それとも自らを痛み付けるだろうか。いずれにせよ、こんなにも愛に満ちた性行為など私は望んではいないのだが。忙しなく息遣いをするスネイプにサラは言った。
「服、脱がない?」
「良いのか」
「私は別に嫌な訳じゃない」
「ではジュエリーも外せ」
「……何故?」
「服は良いのにそれらは、」
「ううん、別に良いの。聞いただけ」
スネイプの内で宛ら何かが引き攣ったかのようだった。彼は視線を吸い寄せられ、目を逸らす事が出来なかった。これがあの女なのだ、三十分程前には死の気配を漂わせ、惨憺な裏世界から戻って来た恐ろしい女なのだ。それにしても眼前に横たわっているのは、一見ごく普通の平凡な人間のように思われた善良な可愛らしい女であり、世間に大勢いる他の美しい、だがごく普通の女と何ら変わるところはなかった。サラは非常に、寧ろ飛び切りと言っても良い程に美しく、多くの男に熱烈に愛される英国的な美人だった。素晴らしく豊かな黒色の髪や濃い眉、睫毛の長い魅惑的な灰色掛かった青い目などは、例え何処か群集の中や、行楽地や、雑踏の中であろうと、どんな無関心なぼんやりした男でさえ必ず、この顔を見れば思わず立ち止まり、いつまでも記憶に刻み付けるに違いない程である。その顔の中で最もスネイプの心を打ったのは、生意気な子供が浮かべる意地の悪い表情だった。他人の心は直ぐに察する癖に、好意には鈍感で、且つ自身に向けられた好意は拒み引き裂く。良心の呵責を少しばかり感じながらもそれを止める事なく、また新たな人間が現れると、その意地の悪い表情で「あなたも私を愛するの?どういった方法で?」と問い掛ける。サラはただ楽しんでいるだけであり、見物人であるのだ──それでもやはり私は、そんな彼女を愛している。愛して止まぬ、その心が欲しいのだ。身体など望んではいないのだ──寝台に横たわって己を見上げている彼女の裸に瞳を転じた。顔は美しいが、痩せた身体であった。所々には骨が浮き出ており、薄い皮膚の直ぐ下には柔らかな脂肪と血管が存在しているのが分かる。スネイプは白のブラウスを脱ぐと寝台の外へ放ると、サラの視線が露わになった上半身に注がれるのを感じた。服を脱ぐと体躯の差が歴然とし、眼前の恐ろしい女を酷く虐めたい気分になった。こんな女、魔法を使わなくとも少し力を加えれば骨は折れ、血を流し死に至らせる事が出来るのだ。
「嫌であれば言え」
簡単だ。この細い首を折るか、小さな口と鼻を手で塞ぐか、顔を何度も殴るか。非常に簡単だ。それなのに何故己のものにならない。再びスネイプは締まった穴に強引に性器を嵌め込むと、サラに覆い被さった。重力に従って垂れる長髪を右手で押さえ、彼女の左耳に舌を突っ込んだ。唾液に塗れた長く厚い肉が少しの隙間を開ける事なく耳の中を這い回ると、静かであった彼女が珍しく嬌声を上げた。それもスネイプの露わになっている左の耳元で。何という生き物だ、女というのは。私は恐ろしい生き物に、恐ろしい女に心を奪われたものだ。サラの聞いた事のない性的な声はゆっくりと、しかし何度も彼の脳梁を殴った。その度に振るっている腰の一打一打に重みが加わった。壊してしまうと思った。いや、壊しても良いのではと思ったかも知れない。これ程に己を苦しめ、蔑み、愛を拒んだ女の何処かしらを壊しても罪には問われまい。赤い口紅が塗られた唇が開き、其処から籠った声が漏れているのを想像した。あの形の整った唇、その中に歯と舌がある。性器を舐めさせると、その舌はどのように動くのだろうか。全て咥えさせたら喉まで行くだろう。後頭部を手で固定し、腰を乱暴に振れば死ぬだろうか。あの美しい顔はどのように歪められ、この細い身体はどのように抵抗するだろうか。
「耳を舐められたのは初めて」
サラが微笑したのが分かった。スネイプは押さえていた髪を下ろすと、胸、肩、鎖骨、首筋にキスを落としていった。唾液が白い肌にべっとり付着し、それが跡になれば良いのにとも思った。他に男はいるのだろうか。恋人を作らない女だ、それは十分に有り得る事であるし、己がその一人であるかも知れない。だがこんなに良い女を眼前にすると大概の男は跡を残したがるものだ。この世の誰も、彼女の恋人にはなれない事が分かっている為に。スネイプは性器を抜くと、サラの股の間に右脚を入れた。何故己のものにならない。彼は恍惚としている彼女の顔に己の顔を近付けた。影に覆われた顔、灰色の虹彩は濃くなり、彼の闇色の虹彩と混じった。私ならば君を大切にする。額、米神、頬、そして乾燥し皺が出来ている唇に親指で触れた。死喰い人に抱かれる事を許す女、君は全く悪い女だ。人殺しの情動はどういったものだ、悪い女である君ならばその情動さえも操った事だろう。正に今の私のように──サラの腰がスネイプの下で緩やかに動いた。彼女の脚を彼の脚に絡めるようにして、彼の尻や太腿の裏を足の甲で摩った。とても冷たかった。氷のようなそれは彼の熱された身体には非常に官能的であり、彼の中で恐ろしい美が新たに生まれた。
「服を脱ぐと更に冷えたな」
「ええ、少し寒いわ」
スネイプはサラに覆い被さっていた体勢から彼女の隣へと移動し、下の方へあった毛布を引っ張ると二つの身体に被せた。彼女は嬉しそうに笑うと、顔と身体を彼の方へと向けた。そればかりでなく毛布の中で彼の大きな手を探し、そっと握ったのである。スネイプは行為中に視線を合わせてくれた事も嬉しかったが、何より手を繋いでくれた事が嬉しかった。彼はふと思った。もしかすると彼女は己を愛しているかも知れない。いや、今は愛してなくとも、これから愛するかも知れない。……そんな事があろうか?そんな幸福な事が、己の人生に起こるだろうか?
「何故こんなに温かいの」
「女と男では体温が違う」
「風邪を引いてるんじゃない?」
そう言って笑い、その温もりから抜け出すと、手の中にスネイプの火で炙られたような熱い性器を収めた。サラは身体を起こし寝台の下へと移動した。大きな体躯から生えている性器。それに触れるのは初めてであった。これ程のものを自分の中に入れ、沢山の傷を付けたであろう性器がすっかり勃起して腹に付いていた。彼の髪色と同じ陰毛に覆われているのに彼女は不覚にも興奮した。この膨らんだ性器を根元まですっかり挿れ、尻と太腿の肉が揺れる程に腰を振られた時は、この友人にも可愛いところがあるのだと思った。彼の喘ぎ声も苦しそうに歪んだ顔も嫌いではない。だがそろそろ彼は私から離れる事になるだろう。私は他人からの愛や慰めを求めてはいない。愛のある抱き方をされても、私は依然として痛みを感じるだけである。
「私の手、未だ冷たいよね」
「ああ、だがそれが良い」
スネイプは仰向けになって脚を開いた。毛布の中でサラの宝石宛らに冷えた手が沸騰した身体に触れる感覚に目蓋を閉じた──ずっと共にいよう。それでこそ良い夜になる。君といると夜の流れは早いが、一人の夜は無上に滅入る。君の傍から私を追い払わないでくれ、それでこそ良い夜になるのだ。我々を引き裂く不幸な時間は不要ではないか。君には、夕暮れが閉じ、朝の光まで心を寄り添う者となって欲しいのだ。