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大樹の影に隠れていたスネイプが見たのは、先程まで行動を共にしていた死喰い人が吸魂鬼に生命を吸い取られている場面であった。直ぐ様これは夢であると気付く事が出来たが、厳密にはこれは全くの虚偽である夢ではなく、彼の昔の記憶であった。丁度左腕に闇の印を入れられた若い頃のものであり、今正に吸魂鬼に組み敷かれている死喰い人は同年代の男であった。人間が布を被ったような吸魂鬼の容姿は古から伝わる死の象徴であり、若人二人は存在こそ知っていたものの、間近でそれを見た事がなければ、それから追われる事もなかった。増してや守護霊など出せる筈もなかった。守護霊というものは愛を知る者、謂わば光の存在であり闇の魔術ではない。現在のスネイプには守護霊を繰り出す事など容易であるが、夢の中にいる彼、人生に於ける絶望を未だ知らぬただの子供は、闇の生物を前にすっかり怖気付いていた。僕が何をしようと吸魂鬼には効くまい。奴を置いて逃げるか?逃げる事は出来る、それも一瞬の内に──この記憶の後に起こる情景がスネイプの頭に浮かぶ寸前のところで、ある一つの光が現れた。暗闇が覆う冥冥とした森の中で彼の目が捉えていた木々と枯葉、横たわる死喰い人と吸魂鬼が、ある銀色の光によって良夜と化した。それはただ周囲を明るくしただけではなく、ある地点から円状にやや強烈な風をも発生させ、スネイプの髪やローブを翻させた。この森には他にもう一人の人間がいたのである。スネイプと同様に暗闇に紛れていたが、その魔法によって存在を顕にした人物は、白熱の光輝を身に纏い、その双眸を吸魂鬼から外す事なく真面に捉え、気を失っている死喰い人にゆっくりと近付いた。正にそれは闇と対極にある光の魔法であった。愛を知る人間、そして非常に優秀な魔法族のみが扱う事の出来る高尚なもの。その美しい光が段々と小さくなり、最後の光芒となる時、その人物がふとスネイプの方へ視線を投げた。しかし光の近くにあるとその周囲は闇夜となり、二つの目は全く役に立たない。その人物は感じ取った気配を気の所為と思ったのか、死喰い人と共に姿眩ましをした。記憶を見ているスネイプは、その人物が一体どんな顔をしているのかを明瞭にさせようとしたが無駄であった。一瞬たりとも視線を外す事なくその人間を見ていたが、それはあくまでも夢であった為に、人物の容姿には靄が掛かったように不明瞭であった。これは昔の記憶なのだ。全く下らない、このような事を思い出して一体何になるというのだ。しかし夢というものは断片的なものであり、ある情景が終わりを告げると、新たなものが再び眼前に現れる……。スネイプは息を呑んだ。
『セブルス』
サラはつい先日もその美しさでスネイプを驚かせたが、今、此方を見て名を呼んだ時にはまた一段と美しいように思われた。彼女は灰色の眼を輝かせて優しく微笑みながら、じっと彼を見詰めるのであった。その目が覚めるような優雅さに触れようと彼が利き手を伸ばした途端、彼女の身体が地面に崩れた。抱き留めようと両腕を伸ばしたが、彼の身体は微塵も動く事をしなかった。ただ彼は彼女の顔、死人の顔を見下ろすだけであり、その頬や髪に触れずに佇立している。サラを見る度、思い掛けない喜びがスネイプの胸を明るくしたあの眼。この世にただ一つしか有り得ないあの眼。この世にただ一人しかいない、生活の光明と意義の全てを集中する力を持った人間。スネイプはふと思った。彼女を失ってしまったら私はどうなるのだろう。一体何に成り果てるのだろう──この思考は、哀れな男の心を顛倒させた。彼は其処に自分の運命の現れを見たのであった。夢から覚めたスネイプは早速読書に明け暮れ、幼馴染みであったリリー・エバンズが息子に授けた魔法、スネイプにとって未知なるものであった魔法を理解しようとしたのである。全くもって新しい精神世界、いや、以前から彼の中に存在していた世界にまた新しい色が加えられたのである。愛だ。これが愛というものだ……。嘗てこれ程までに、愛と己の魂が強く結び付いた事があっただろうか。二度と失うものか。その為ならば人間は何だってするべきなのだ。サラの屋敷、園生──黒い蝙蝠のような夜は過ぎ去り、園生の門辺に立つは己ただ一人である。忍冬の香りは辺りに漂い、薔薇の香りは馥郁と風に運ばれる──スネイプは書物の一言一句に触れる度に、サラの姿をその明るい世界の中に留めるのであった。

Leon Bridges - Shy