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Don’t look deep into those angel eyes



*性的表現あり
セックスしないと出られない部屋っていうやつ

「運が悪かったね」
扉も窓もないただの石壁に片耳を当てたサラが言った。スネイプとサラは全くの見知らぬ部屋に閉じ込められていた──彼女の元へある情報を届けた後、紅茶を飲みながらポツポツと雑談をしていた。その最中に、はたと気が付くと此処にいたのである。スネイプはカップを持ったまま、暫くの間、一体何が起こったのか皆目分からなかった。しかし、それはサラも同様で、珍しく困惑した態度でこの部屋の中をうろうろと歩き回っていた。
「運の問題ではない」
「何かしらの魔法に引っ掛かったんでしょ」
「全く堪ったものではないな」
スネイプはやっとカップをソーサーの上に置き、重い腰を上げた。飛ばされたのであろう此処は明らかにサラの部屋ではなかったが、立派に暖炉やテーブル、そして寝台やらの家具が設置されてあった。そして、彼等の頭上には、この広い部屋には合わない小さなシャンデリアが垂れ下がっており、全体に明かりが行き届いておらずに薄暗かった。
「まず杖がない。そして我々は眠ってもいないのに、気が付くと此処にいた。君が開発している魔法が齎したのでは?」
「違うね。私は幻覚だと思うけど」
「あの死喰い人のか?」
「でもこんな高度な魔法、聞いた事もないけど……」
スネイプが訪ねた時、サラはある死喰い人の頭の中を漁っている最中であった。しかし、これはサラの意識が此方へ戻って来てから起こった事である。彼女は職業柄、呪文の開発を趣味としているが、他人の杖にまで作用する魔法は彼女であっても到底生み出す事は出来ない。
「……いや、聞いた事がある」
「え?」
「人間が繰り出し、そのまま放置された魔法が時間と共に変化して起こる現象だ。それらは直ぐに効果が失われる魔法ではなく、」
「ああ、なるほど。それで?」
スネイプの言いたい事を理解をしたサラは言葉を遮り、彼の顔を見上げた。スネイプは彼女のそういうところ、「分かったから次どうぞ」という態度が気に食わなかったが、その先にある言葉を言うのを躊躇ってしまった。喉につっかえて中々出て来ないそれは、じんわりとスネイプの喉や胸を焼き始めた。
「それで?」
「いや、やはり勘違いかも知れん」
「勘違いでも良いよ。それで?」
スネイプはサラの眼を見たが、一秒も待つ気がない彼女が彼より先に口を開いた。普段は勘の悪い彼女の性が、こういうところでは良い方に発揮される事をスネイプは良く分かっていた。全くもって恐ろしい。
「何かしないとこの幻覚は取り除けないって事?例えば、どちらかが死なないと出られないとか」
「違う」
「なんだ、安心、」
「性行為だ」
自分が支離滅裂な事を言った時に感じるあの慙愧、他人が理路整然としない事を言った時に感じるあの羞恥が一気にスネイプの身に迫った。彼自身が忌み嫌うそれが今、彼の口から発せられた。サラは嘸かしこの己を馬鹿な人間だと嘲笑するだろう、とスネイプは踏んでいたが、彼女は「なんだ、そんな事か」と言わんばかりの表情を浮かべて見せた。そして、次に浴びせ掛けられるであろう言葉に、スネイプは自ずとぶるっと身を震わせた。
「じゃあ、さっさとやろう」
「……何だと」
「兎に角この幻覚を何とかしたい。死喰い人の襲撃を受けて皆死んでたらどうする?」
先程身を震わせた感覚は予想以上に大きく強烈で、スネイプの頭を何度も内側から殴った。眼前にいるこの女はこういう人間であるという事を誰よりも理解しているスネイプであったが、思わぬ返答にくらくらと目眩がした程であった。こいつ、正気か?今のスネイプには、この状況でサラと性行為をする位なら、たかが騎士団員、たかが闇祓い、幾らでも死んでしまえと思った。
「待て」
「なに、」
「本当に良いのか。何の根拠もない事だ」
「私は良いよ。セブルスは?」
解決策が性行為であるという事が分かって以来──まだそれが正解とは確定していなかったが──サラの顔に浮かんでいたあの珍しい困惑はすっかり消え失せていた。サラが忌み嫌うのは何の説明もつかぬ事柄ではなく、何の解決策もない事柄であったからである。
「別に構わんが」
「じゃあ下、脱いで」
そう言いながら寝台へと移動するサラの後ろ姿を目で追う。白のサテンブラウスに黒のクラシックパンツを身に纏った貴族は、その場に佇立しているスネイプを振り返る事なしにその寝台に腰掛けた。ヒールのあるエナメルの靴を脱ぐと、両脚を軽々と上質なシーツの上に乗せた。サラが迷う事なくズボンに手を掛けたのを見ると、スネイプは彼女からさっと視線を逸らし、床を見ながら彼も寝台へと近付いた。
「上も脱いだ方が良い?」
スネイプは今までに、サラの姿、一糸纏わぬ姿を幾度となく想像した事があった。彼女が夜に見せる姿、スネイプの知らぬ誰かに見せる姿を頭の中で拵えようとして、結局は明瞭に想像が出来ずに止めるのであるが、彼は彼女の露出した腕や脚を見た事がなかった。しかし、スネイプは「そのままで良い」と言った。勘違いしてはならない。己はその姿を見る事が許される人間ではないのだ。焦点の外で、サラがズボンを寝台の脇にある椅子に掛けたのが分かった。薄桃色の肌、見なくとも分かる、柔らかいであろう太腿が顕になっていた。スネイプは留まらぬ視線を長髪で隠すことが出来た為に、彼女のその脚を見る事なしに、衣服を脱ぐ事が出来た。慣れた手付きでボタンを外し上着を脱ぐと、それをそのまま床へ落とした。スネイプは今、寝台の脇に立っている為、寝台の上にいるサラと彼の性器が同じ高さ程になっている。このまま彼女の目の前で性器を曝け出すなど拷問だ。スネイプは上着の下に着ている白のブラウスの首元を緩め、長髪の影から彼女の顔を見ようとした。
「脱がせてくれる?」
スネイプの倉皇した心情を察したサラが、その顔に僅かな微笑を浮かべて尋ねた。そして、彼が乗り掛かる場所を取る為に、彼女は少し枕元へ身体を移動させた。スネイプは寝台に右膝を乗り上げると、ぐっと身体をサラに近付けた。彼女のその太腿に触れる事なしに、両手を下着へと向かわせた。サテンブラウスの影にあるそれに親指を入れ下へと退ける際、浮かせた彼女の尻に親指が擦れた。スネイプからは直接には見えないが、直ぐ其処に、女の魅力が幾つも存在しているのだ。彼は僅かに開いた脚を通らせて下着を脱がせると、サラの瞳と出会った。カチリと固定されたように二人は視線を真面に合わせた。
「挿れて」
サラはその下着をスネイプの手から取ると、その大きな手を握った。握ったというよりも、その手にただ手を重ねただけであったが、スネイプは息を呑んだ。ひんやりと冷たい手、行儀良く揃えられた生脚、サテンに包まれ見えない胸や腰、漆黒の髪と灰色の虹彩。そして、サラの香り。馥郁たる心地良い香りが傍にある。
「痛むぞ、良いのか」
この美しい女を抱くのだ、他にどんな快楽があろうか。己が恋して止まなかった女、美しい女。スネイプは返答を待たずにサラの脚を開かせると、間に身体を入れた。彼女の漆黒の髪がシーツの上で畝り、彫りの深い顔立ちが彼を見上げた。スネイプは苦しくなって来ている下半身をそのままに、その唇、赤色の口紅が乗った豊かな唇に向かって顔を近付けた。しかし、それに口付ける事なく、スネイプはサラの肩に顔を埋めた。勘違いしてはならない。己は彼女に口付けする事さえ許されないのだ。顕な首筋、浮き出た鎖骨、その上を走る銀のペンダント。その下には二つの膨らみ。思わずそれらに手を出しそうになった両手を彼は強く握り締めた。
「セブルス」
サラに唯一触れている己の太腿。其処から彼女の低い体温が、曖昧な感触と共に伝わっている。スネイプは彼女の左側の耳元で深く息を吸った。人間の肌の匂い、本来の匂いは艶やかさをもって彼の脳梁を震わせた。何て良い香りを持っているのだろう。女というのは本当に良い香りがする。無意識の内に動いた腰、ズボンの奥にある性器がすっかり姿形を変え、遮るズボンを押し退けようと肥大している性器が、動いた腰によりサラの開いた脚の奥に当たった。スネイプは一度も彼女の表情を窺う事はしなかった。一度見ると、彼女に一体どんな事を仕出かすか分からなかったからである。酷い事だ、全く酷い事をこの女にしてしまう。スネイプは身体を起こすとズボンに手を掛けた。大きく開いたズボンからは下着を貫くように性器が勃起しており、彼は片手でその下着を退けると、一度下着と共に下へ向いた性器は大きく揺れ、将又上を向いた。サラを見ていなかった為、彼女がこの姿を見ているかどうかは分からなかったが、スネイプは手で膨らんだ性器を包み、先端を中心に数回扱いた。それは溜まった際に致す速度とは比べものにならない程にゆっくりとしたものだったが、彼女がいる為に、彼女の香りがある為に、いつもよりその細胞一つ一つの存在が明瞭であった。手が摩擦する感覚、性器の皮膚が張っていく感覚、そして睾丸が揺れる感覚。それらを感じながら、もう一方の手でサラのしっとりと肉の付いた内腿に手を添えた。其処から沿うように上って行くと、脚の付け根に着いた。筋が浮き出た割れ目付近をなぞると、びくっと彼女の身体が震えた。その反射で脚を閉じようとした動きを阻止するようにスネイプはより一層深く身体を入れた。陰毛の茂みを裂き、親指で割れ目を下から上になぞり上げた。あのひんやりした手や太腿とは違い、全てを焼き尽くすような熱を持った其処は、彼の親指をねっとりと迎え入れようとした。しかし、そのまま奥へは行かずに、数回其処を往復しては蕾をひたりと押す事を繰り返した。
「早く」
聞こえた声は性的なものであった。初めて聞く類の声にスネイプの頭がずしりと重たくなったが、もう直ぐその中には深淵が姿を現していた。いつでも其処に落ちる事が出来、だが落ちたら最後、サラのその声を聞きたいが為に荒々しく犯すという、悪魔の住む底が見えない深淵。無上に辛かった。何故こんなに辛いのか?ただ女を抱くというだけであるのに?スネイプは考えるのを止め、性器を持つと割れ目へと当てた。先端が外の肉を持ち上げる感覚に思わず息を吐き、穴を見付けては其処へ性器を嵌め込んだ。全てを挿れるのに偉く時間を掛けたつもりであったが、恐らく中では出血しており、サラが痛みに耐えている事は見ないでも明らかであった。愛のない行為、愛していない男に彼女が悲鳴を上げているのだ。スネイプは顔を背けたまま、再び彼女の肩へ顔を埋めた。そんなサラの事を考えても腰は止まりそうになく、ただ気持ち良くて、ただ彼女の生命、魂がこの腕の中にある事が嬉しくて半ば我を忘れた。あの深淵に落ちても良いのではないか?彼女を手籠めにし、彼女を自分だけのものにしても良いのではないか?情欲は虫けらに与えられたものだ、己はこの虫けらに他ならないのだ……。
「サラ」
重低音の音が自身の頭に鳴り響いた。それは彼女の全く静かな息遣いを包み、彼女の名が持つ響きを煌めかせた。サラ、サラ、サラ……たった一人のサラ、私だけのサラ。君自身だけでなく、私は君の名も好きなのだ……。スネイプは眼前にある細い首を見詰めながら、静謐の中で輝く彼女の瞳を想起した。あの双眸が、あの意識が、己に向けられる事はない。今もそうである、彼女は己を見ない。甘い声を出す事もなく、身体だけを己に捧げている。天使のようなサラの内にも、この虫けらが住みつき、血の中に嵐を巻き起こす事はあるのだろうか?彼女は誰を愛しているのだろう?誰かを愛す事はあるのだろうか?これは正に嵐だ、情欲は嵐だ、いや、嵐以上だ。美というものは怖い、全く恐ろしいものだ……。すると、不意に、サラの利き手がスネイプの顔の方へと伸ばされた。彼は息を詰まらせた。その手が、低い温度を持ったそれが自ら彼に触れる事など今まで一度もなかったからである。友人であっても抱擁の一つ、頬にする口付けの一つさえ有り得なかったのが、そんなサラ自ら、向けた意識で持ってその手を動かしたのである。その手が怖かった。何をするにしても優雅さを漂わせているその手が己に向けられる事が怖くて、スネイプはゆっくりと此方へ向かって来るその手を凝視した。しかし、その手はただ彼の黒髪に触れ、覆われている痩けた頬をするりと撫でた。たったそれだけであった。彼を傷み付ける事も、彼を侮辱する事もなく、その手は頬に触れただけであった。伸びていない長細い爪、華奢で繊細な女らしい手だが、その手には誰にも想像する事が出来ない苦悩と峻厳がある。スネイプはシーツの上へと落ちて行くその手を取ると、長い指にある関節に唇を寄せた。君は一体何者だ。何を至福とし、どのような哲学を持っているのだ。私は、君の事を何も知らない。何も──スネイプは身体を起こした。限界がその身に迫っており、腰を大きく動かしながらもその手を離す事なく、口付けたまま、スネイプはサラに瞳を転じた。あの明眸は、己が望んで止まない柔らかな宝石は此方へと向けられていた。美とは恐ろしいものだ。私が恐れるのは、他でもない君だ。両膝に力を入れ、ぐっと腰を前へ突き出した。股間に感じるサラの柔らかな太腿、尻、熱い肉、そして心臓。睾丸がぎゅうっと引き締まると、ぶるっと震えた性器の先端から精液を吐き出した。それと同時に、スネイプの口から吐息が漏れた。渇いた唇から出たそれはサラの手に当たり、指の間を通り抜けた。スネイプは達する寸前に固く閉じた瞼を、彼女の前で開ける事はしなかった。今はただの情欲だけを感じていたかった。
「……戻った?」
スネイプは手を離した。瞼を開けると、サラは彼ではなく、もう辺りを見ていた。僅かに乱れた髪を、先程彼が触れていた手で整えて、その顔に安堵を浮かばせていた。彼は部屋を見渡す事もせずに、性器の付け根を持つと膣から抜き出した。部屋の明かりによって、互いの体液が全体に張り付いた性器がはっきりと見えた。そして、サラの割れ目から流れ落ちた白色の液も。無上に辛い。それは何故か。簡単な事だ、彼女は己を愛していない。
「良いの、気にしないで」
スネイプの視線から察したサラが言った。そして、脚を閉じながら、「外に出していたら戻れなかったかも知れないし」と付け加えた。下着に手を伸ばした彼女であったが、先程から一言も言葉を発す事をせずに、沈黙したまま衣服を整えている男を見た。スネイプは緩めていた首元のボタンを留めるのを忘れたまま、ブラウスの上に上着を羽織った。
「……セブルス?」
「避妊薬を届けさせる」
背後にいるサラに言い放ち、スネイプは部屋を辞した。上着のボタンも半分しかしておらず、ズボンの下にある、一枚の薄い下着に貼り付く性器が何とも居心地が悪かった。彼女は己を愛さない。そんな当たり前の事実が、あの快楽よりもより鋭く強烈にスネイプに齎された。

Abba - Angel Eyes