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Where the holy light, had just removed the curtains of the night



不死鳥の騎士団の拠点、その広間には悄然とした顔ぶれが集まっていた。設置された長机に向かい合って座り、ある問題について──それは毎回同じ問題であったが、聞いていて憂鬱となる近況と共に、問題解決に向けて話し合う。その中に一人、終始話をする気のない魔女がいた。サラ・バラデュールという人間は周りとは異なり、何か抜きん出たところがあった。彼女にはガラスに混じる本物のダイヤモンドのような光輝があった。この光輝は全く、静謐の中で美しいその瞳から発しているのであった。疲れたような、と同時に情熱的なその眼差しは、非の打ちどころのない誠実さで人間の心を打った。彼女は不死鳥の騎士団の創立メンバーであり、そして魔法省に籍を置く闇祓いであった。彼女は表向きの仕事、所謂闇の魔法使いの逮捕・拘束と共に、ある仕事を担っていた。魔法省へ身柄を引き渡す前に、闇の魔法使いの頭の中を覗き、闇の帝王に関する情報の取得、そして死喰い人の居所などを割り出すのである。それは機密事項である為、そして何より身の安全の為に、闇祓いのごく一部の人間にのみそれが許されており、誰がその仕事を請け負っているかという事は当然明かされない。近年は闇祓いの中でも腐敗が起こっており、身に迫るであろう危険には益々敏感になっていた。その隙の全くない態度は、騎士団員に対しても揺らぐ事はなく、彼女は議論に拍車を掛けている騎士団員の顔を見ずに、床を見たり、天井を見たりしていたが、意識は専ら彼等の頭の中に集中していた。杖なしに覗く事は出来ないが、次は一体誰が死ぬだろう?我々の存在が勝利するまで、一体この中の何人が死ぬ事になるだろうか?と勝手に予想しては、自分の思想に耽るのであった。そんな彼女を眺める一人の男が、広間の端に佇んでいた。直ぐに帰る事が出来るよう扉の傍にいる彼も彼女と同様に、話す事など何一つないと言わんばかりの態度で、議論に耳を傾ける事なく辺りを観察していた。彼はセブルス・スネイプであり、ホグワーツ魔法魔術学校の教授、そして元死喰い人という、この場には似つかわしくない特殊な経歴を持つ人間であった。そんな彼とサラ、闇の帝王を崇拝していた過去を持つ人間と死喰い人をアズカバン送りにする人間は相反する存在であり、決して交わる事のない存在であるが、彼等は違った。二人は人生に於いて全く違う選択をしたが、二人には似ている部分があった。スリザリン生特有の機知に富む才知と狡猾さを持ち、雑談や冗談を嫌い、下らない事に心を労する事をしない。そして、二人は互いに突かれると嫌な部分を熟知しており、その為に彼等は沈黙の友人という関係を築き上げた。騎士団員の中でこの二人だけが異質で、思考が読み取れず、逆に此方の思考を完璧に読み取って来るこの二人を他の騎士団員は特別視していた。しかし、実際に警戒されていたのはスネイプ一人であり、サラはその身に漂っている不可思議な、我々には到底理解出来ないであろう雰囲気の他には何一つ、不明なところはなかった。彼女は善人で、この組織を守り、そして他の騎士団員と同様に平和を望んでいた。ただ単に彼女は元死喰い人と友人であり、そしてその友人に話し掛けたり、笑い掛けたりした。その為に他の騎士団員はスネイプに話があっても、決まって彼には話し掛けず、代わりに彼女に話を持ち掛けるのであった。サラはその人間の心を打つ、非の打ちどころのない誠実さを持ってはいたが、「私はあなたを信頼していません、これからもする事はないでしょう」という確固たる信念をその眼に隠さず示しており、その事がスネイプにとって可笑しく、またそれと同時に頼もしい存在であった。 人間を信頼する事をせず、自らを語ろうとしない彼女ではあったが、彼にだけは話をした。そして彼も、すっかり癖の一つとなっている、話し相手を小馬鹿にした時に眉毛を上げる仕草を、サラに対しては一切しなかった。スネイプは彼女の話を聞く時、静かに頷いたり、時には皮肉を言ったりしたが、彼女自身を小馬鹿にするような事はしなかったし、また彼女も同様に、彼を嘲笑するような事をしなかった。仕事の面で互いには出来ない事を相手が熟している事を知っており、誠実に、そして孤独に、それに向き合っていた為に、一種の尊敬の念でもって相手を眺めるのであった。スネイプはサラと会った後、まるで冷水浴でもした後のように、清々しい気分になるのであった。彼は彼女の前に佇んだ時、またもう一度会えるだろうかと思う事があった。あの歩き方、あの顔が見られるだろうか。また私に何か言うかも知れんな、首を少し回して、此方を眺め、もしかすると、私に笑い掛けるかも知れん。一人の友人の存在のみが、スネイプという人間を肯定し、彼の過去の過ちを正そうとはしなかった。サラ以外の人間の思想は全て、ただ夢の中のようにぼんやりと彼の頭を掠めるだけで、些かの興味も呼び起さなかった。それどころか、何故人間は皆、誰にも用のない事を躍起になって喋っているのか?と彼には不思議に思われて来る程であった。サラとスネイプが話をする時、いや、それは話といったものではなく、何かしら神秘的な魂の交流であった。それは刻一刻と二人を近く結び合わせ、二人が今にも入って行こうとする未知の世界に対する喜ばしい恐怖の思いを、互いの胸に呼び起すのであった。会議中に自分を時々眺める彼の眼差しを彼女は感じていた。彼の方は見ないでも、その動作、眼差し、広間での彼の場所も、一人でに分かるのだった。そして気紛れにだが、サラがその視線を捉える事があった。灰色の落ち着いた虹彩が黒色の瞳を一瞬捉えると、彼は決まって素早く他の方へ瞳を転じた。スネイプにとっては彼女はやや厄介な人間であった。才気と自信に溢れ、臆する事をしない彼女と視線を合わせたら最後、何もかも読み取られる気がするからである。しかしサラは、友人である彼の心ないし頭の中を覗こうとした事すらなかった。彼だけは特別に閉心術に長けており、自分の眼でその漆黒の双眸から何かを読み取る事しか出来ない。その為に彼女は、スネイプが清々しい気分でいることを知らなかったのである。全世界に於いて彼の為に存在しているものは、彼にとって俄に大きな意義と重大性を帯びて来た彼自身とサラだけであった。彼は自分が目も眩むばかりの高みに立っており、何処か遥か下のほうに、彼女以外の人間、その他諸々の世界が存在しているような気がしていた。そんな彼の心情を、彼女は全く知らなかった。