ヒエラルキーの崩壊
[甘々]
[マリア様へ]
シンジ君にくっついていたカヲルが何だか嫌で、くっつくなら私にくっついて良いのに…と誰にも聞かれないように小さく呟いたのは数日前の事で、それを聞かれていたことに気が付いたのはその日の夜。
そして、今日も私は腰回りにくっつく渚カヲルのほっぺをつねるのです。
「…カナ、痛いよ」
「そんなにくっついてたらご飯作れないでしょ?」
「好きだよカナ」
毎日これである。
家に着くと途端にくっつき虫になり、どこで何をしようともくっついて離れない。子供じゃあるまいし、と言えば、うなじにキスしはじめるのでもう何と言えば良いのか分からない。変なところマセている。
「お腹すいたよカヲルー」
「本当だね」
「ご飯」
「離れないよ」
「じゃあ無理」
もう、馬鹿。と自暴自棄にリビングの床に寝そべる。お腹すいたお腹すいたとゴロゴロしながら文句をたらす私の横でカヲルは笑いながら私を見ていた。もう時刻は夕方で、赤い陽がカヲルの横顔を照らす。そんなカヲルは目を細めて、ゆったりとした動作で私の髪を梳いた。時折髪の先にキスしたりして、胸の奥がこそばゆい。じっとカヲルの動作を見つめていたら、ああ、とカヲルは気付いたように私の唇に軽くキスをした。別に、そういうわけで見ていたわけじゃない。そう言おうとしたけど、短く続くキスの嵐にそんなことを言う気は失せて、仕方なくカヲルの首に腕をまわした。
何分位そうしていたのかは分からないが、気付けば部屋の中は真っ暗で夜の帳が下ろされていた。キスで頭がぼうっとする私をよそに、ついにカヲルは立ち上がった。触れていた部分にいきなり外気が触れる。温もりが離れていくのが寂しくて腕を伸ばすが、届かない。
「ご飯作るよ」
そんな私を見向きもせず、カヲルは私がいつもしてるオレンジのエプロンを付けてキッチンに立った。そんな後ろ姿をぼんやり見ていると、なんだか分からないが、無性に寂しくてたまらない。さっきまでカヲルが私にくっついてたくせに。こっち向いてよ、なんて馬鹿みたいなことを言いそうになる。さっきまで温かかった唇は何だか冷たくなったように感じて、思わず立ち上がった。
「…カナ」
「なに?」
「そんなにくっついてたらご飯作れないよ」
「好きだよカヲル」
カヲルの笑い声と共に包丁を置く音がした。
「ほんと、好きだよカナ」
ヒエラルキーの
崩壊
さて、ご飯はいつになる
→ご挨拶