世界中の望んでいた事が起きた、私の恐れていた事が起きた。強敵よりも海軍よりも怖いもの、最も恐れて居た事が。
「終わったねー」
「ああ、終わったな」
マルコは清々しい顔をして答える。私は何でも無い事の様に言ったけど、その内心は不安が渦巻いていた。
退屈は人をも殺せると言うけれど、今の私は退屈が怖くて、その恐怖に押し潰されて死んでしまいそうだ。
「海賊王かぁ」
「そう、落ち込むなよい」
オヤジを王にするという私達の夢は敗れ、結局はエースの弟、麦わら達が最果ての地に辿り着き海賊王となった。
世界政府は敗北を喫し、世界貴族だなんて大層な名で呼ばれて居た天竜人は、その地位から引き摺り下ろされた。
歴史は覆される事となり、空白の100年の謎も解き開かされた。
世界は善も悪も無い、平和になったのだ。
「オヤジだって満足だ」
「オヤジは満足でも、私は満足じゃ無いよーい」
人の真似するなよい、なんて言ってるマルコは笑ってて…ビスタもジョズも、みんな何だか良い顔してて。
私だけ、置いてけぼり…私の気持ちだけ、何だか置いてけぼりな気がして仕方がない。
不安で、仕方がないよ。
「俺だって、あいつなら満足だよい」
「そりゃあ私だって、他の奴が海賊王だなんて嫌だけどさー」
多くの海賊は解散し、海軍も崩壊を余儀なくされた。
きっと世界は変わる、それに合わせる様に私達も、きっと変わっちゃう。
昔は海で名を馳せていた奴も老いて逝くだろうし、やんちゃしてた奴も大地を踏みしめ家庭を持ったりするのだろう。
私も家庭を持ったりするのかな、するんだろうなぁ…
そうやって、色んなものが引き継がれて今があるように。
「昔さぁ、海賊やってると婚期を逃すー!とかって、ナース達と話してたよねぇ」
「今度は何だ?結婚でも、したいのかよい」
てか、話してたのなんか俺が知る訳ねェだろと続けたマルコは、なまえも女の子だったんだねェと笑った。
白ひげも赤髪も語り継がれて、麦わらは歴史に名を残すだろう。私は何時か、孫とかに話して聞かせるんだろう。
正に平和…平和そのものじゃあ無いか…
それが怖いだなんて思う私は、やっぱり如何かしてるんだろうな。
「結婚かぁ…故郷のおっかさんが、泣いて喜ぶなぁ」
「ハハ、何言ってんだよい。お前、母親なんて居ねェだろい」
「そうだよーだ!オヤジ、泣いて喜ぶかなぁ」
「どうだろうなァ…泣くかもなァ、一人娘だし」
親なんかオヤジ以外に居ない。家族なんか、仲間以外に居ないのに…一体この先、一人で如何しろっていうんだ。
「なァに、感傷に浸ってんだよい」
「んー、終わったなーって」
「終わったな…でも、また始めりゃあ良い」
冒険は、まだまだ続く
海がある限り海賊はやれる、風がある限り船は進む。
隠された財宝だって、何も“ひとつなぎの大秘宝”だけじゃ無い。
結婚してェなら貰ってやるよい、と言ったマルコを見て…ああ、私が怖いのは平和じゃ無くて孤独なんだと思い知った。
だけど夢主は、マルコに嫁がない!
お互い好意を持ちつつ、このまま旅を続けて、微妙な関係を保ってくれればと妄想中。