絶対に正しいことを教えて


お勉強なんか、本当はどうでもよかった。
不確定性に塗れたものなんか聞こえない、知りたくないの。
そんなことよりも、絶対に正しいことを教えて。

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「それで俺に頼みに来たのか」

別に八百万とかでもよくねえか、仲良いしなんてじとりとした視線を向けられる。
明日はテスト、何を隠そうとてつもなく馬鹿な訳で――自分で言っても悲しくなるが――クラスメイトの轟焦凍くんに教えて、なんてお願いに来た放課後。
百ちゃんでも良かったんだけど――私としては、というか女の子ならきっと皆、好きな人に教わりたいはず。
私だってその一人だ。

「百ちゃんは忙しそうだったから……ごめんね、もしかして轟くんも忙しかった?」
「そうじゃねえけど……俺でいいのか?」

ほんとうは百ちゃんは忙しそうではなかったけど、少しだけ嘘をつかせてください。
嘘も方便ってね。
俺でいいのか、なんてそんなの、轟くんが良かった、むしろ彼以外なんて嫌。
轟くんがいいんだ、と柔らかく微笑んでから、彼の向かいに座った。

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夕方。オレンジ色、あるいは茜色とも受け取れる光を半身に浴びながら、彼のわかりやすい説明に感銘を受ける。
全く理解出来なかった箇所がスラスラと頭に入っていくのは、きっと轟くんの説明が上手すぎるから。

「……へえ!そうだったんだ、自信が無い所がわかった。ありがとう!」

帰りになんか自販機で奢るからさ、一緒に帰ろうよ、なんて言いながら勉強道具を纏める。
轟くんはコーヒーとか飲むのかな。
ふとそんなことを考えて、ちらりと彼の方へと視線を向ける。

――ぱち

向けた先の轟くんも私を見ていて、視線がぶつかった。
数秒の沈黙が流れる。
開いていた窓から吹き込んだ風が、轟くんと私の髪を揺らす。
きっと今この状況を第三者から見たら、かなり幻想的なのかも、なんて呑気に考えていた。
そろそろしっかり片付けないと、とわかっているのに目が離せない。
ていうか思ったよりも距離が近い。
ドキドキしてしまって、視線を下ろして勉強道具を眺めた。

「目離すな、こっち見ろよ」

ゆっくりと頬を撫でられて、びくっと震えつつも彼に視線を戻す。
刹那、唇に何かが触れた。
それが轟くんの唇だと理解するのに時間はかからなかったけど、なぜ彼がキスを落としたのか、どうしてもわからなかった。

「轟くん……あの……」
「悪ぃ。でも、あまりに綺麗だったから思わず……」

好きなんだよ、とぼそっと聞こえた。
誰が、なんて思いながらもわかってる。
ここに私しかいないんだもん、きっと彼は私を好きなんだって。
そう考えたらとてつもなく愛しくて、轟くんのネクタイをぎゅっと引っ張って、今度は私の方からキスをする。

「私も好きだよ、」

――お勉強は苦手だし不確定だしわからないけど、この気持ちは絶対に正しいの。
そう含んで笑った。
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