薄明に落ちる


「ミュロンのばーか!! 団長は私のだもん!」
「はァ!? 兄さんは僕のなのだ!」

いや私のだし、と私の肩を掴むミュロンの腕を掴み返す。
ミュロンだってお兄さん取られたくないのもわかるけど、私だって好きな人とくっつきたいし役に立ちたいのだ。
妹っていいな、私、団長の妹になりたかった。

「二人とも仲良くね、できるだろう?」

私たち二人の頭にぽん、と手を置きながら団長が言う。
団長がそう言うなら仕方ない、と掴む腕を下ろした。
さすが僕の兄さん、とミュロンが嬉しそうに笑うから。

「……っ、」

溢れそうになる涙を死ぬ気で堪えて、くるりと踵を返す。部屋に向かおう、と静かに足を踏み出した。
そうよ、どうせどれだけ好きでも私のものにはならないのよ。
純血ファナリスと言うだけで売り買いされて奴隷をしていた時、団長が解放して仲間に引き入れてくれたことが本当に嬉しかった。
綺麗に笑って、ファナリスの血が入っているのが確かだという強さもあって、貴族らしい上品さもあって。
その時私、誰がなんと言おうと、"ムー・アレキウス"という一人の人間に惹かれたのよ。
私のものになってくれるかもしれない、なんて期待の一つだってない。
ファナリス兵団の団員からも、貴族からも、誰からだって好かれる団長が私のものになるなんて、夢のまた夢どころの話ではない。


*


その夜私は、団長の部屋の前に立っていた。
満月の煌めく夜。どうしても団長に会いたかったのだ。
こんこん、とドアをノックする。

「団長……なまえです、」

失礼しますね、とドアを開けると、団長は窓辺に座って空を眺めていた。
月明かりに照らされる赤髪があまりに様になっていて、私はすこしだけ、時を忘れた。
ふと、団長が振り返る、

「ああ、なまえ……どうしたんだ、こんな夜中に」
「私、ずっと言いたかったんです」

じっと団長の目を見る。
なんてかっこいいの、なんて思ったけどそんなこと考えている場合じゃない。
言いたくて仕方がなかったから、今こそ。

「私、"団長"も"兄さん"もいらない。だから、"ムー・アレキウス"っていう一人の人間が欲しい……出会った時からずっと好きなんです、ムーさん」

気づいたら、涙が頬を伝っていた。
何が悲しかったわけでもないのに、 酷く泣きたくなったのだ。
ずっと思っていた団長に思いを伝えられたことに、感極まっていたのかもしれない。
私、泣いちゃうくらいあなたが好きなの。

「俺は出会った時から君のものさ、心も体も」
「どういうこと、ですか……」
「ずっと、」

俺だって、ずっとなまえのことを思っていたさ。
団長は、私と目を合わせてそう放った。
しん、と静寂が流れる。
嘘でしょうと聞き返したかったのに、口が開かなかった。
瞬きをすることすら、惜しかった。

「勿論ファナリス兵団の仲間にするために解放したって言うのもある。だけど、君に惹かれていたからというのも事実だ」

だんちょ、と声を漏らすことしか出来なかった。
私と同じ時に同じように一目惚れだなんて、そんな運命あるのだろうか。
だっと団長のそばに駆け寄って、抱きしめる。
私がこんなに幸せになっていいのだろうか。
どうしようもなく泣きたい気持ちと幸せな気持ちが、ごちゃまぜになった。

「ねえ団長、もう一度言わせてください。出会った時から、あなたのことが好きでした。私と共に生きて頂けませんか」
「ああ、喜んで」

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