人はそれを神と呼ぶ
私はいつも平凡を愛していて、個性なんてものはかなり遠い存在となっていた。
レイブンクローに所属しながらも周りの頭の良さについていけずに自分に自信なんて持てないけれど、それなりに生きている。
友達と話しながら食事を取って、そこそこ勉強もする。クィディッチの観戦をしたり、夜は時間を守って寝る。きっと模範的な生活態度の学生なのだろうけど、これが私の平凡ふつうなのだ。
スリザリンやグリフィンドールに組み分けされた人はすごい、とたまに思ったりもする。
そこの人たちや周りの頭のいい人、運動ができる人などには憧れを抱いているし、なれるものならなってみたい。その能力がほしい、ほしかったと何度も願った。
しかし私にはそんな勇気も狡猾さも兼ね備えていないため、もうとっくに諦めていた。
「あ、インク忘れた……」
図書室の奥、たぶん誰も知らないであろう特等席で課題をしようと道具一式を広げた――けれど、どうやらインクを忘れてしまったようだった。
今から取りに行くのもめんどくさいし何か軽い読み物でもするか、といつも持っている本を取り出し、広げた道具を纏めた。
「あ、」
その驚いた声のした方に目を向けると、黒髪のスリザリン寮の男子生徒が立っていた。
ごめんなさい、先客がいたんですねと言いながらこの席を後にしようとした彼を、何を考えたのか引き止めた。
「私のことなんて気にせずに、ここ使ってください」
ありがとうございますと微笑む彼にこちらも微笑みかけながら、栞を挟んでいたページを開く。
貴方の名前は、という問いかけにはあまり答えたくなかったのだけれど、失礼かと思い名乗る。
彼も名乗り返してくれて、名前はレギュラス・ブラックというらしい。
「Mr.ブラックは……」
「レギュラスで構いませんよ」
ごく丁寧に名前を呼んだらファーストネームで構わないとのことなので、お互いそう呼ぶことにした。
会話を続けていると彼がクィディッチのシーカーだということや、さらに頭も良いのだということを知った。
「貴方は尊敬すべき人ね、すごいわ」
私貴方みたいな人好きよ、と付け足す。
彼は、さっき初めて会った時のような驚いた顔をする。
「なまえは僕自身を見てくれるんですね、」
すぐに柔らかい笑顔となってそう口を開く。
――私は既に、貴方のその笑顔に、その声に、その仕草に、恋をしてしまっていた。