君の愛という名前

鮮明に、覚えていた。
動くたびに跳ねる、あの桃色のツインテールを。

「何年ぶりかな」

たった今私は、生まれ育ったかつての町へと足を踏み入れた。





「そうか、みょうじは四年生までこの町にいたんだな」

私が今日から転入するクラスへ向かう間、無駄に話しかけてきた担任の話をひたすら「ええ」「そうですね」とあしらっていた。
あまり人と話すことが得意ではないから。
そんな私がぼんやりと考えていたのは、四年生の時に離れ離れになった、初恋の人のことだ。
女の子顔負けのきれいな顔立ちで、桃色のツインテールをさらさらと靡かせていた男の子。

「……蘭丸くん」

小さく呼んだ彼の名前は、担任の話し声に混ざりあって消えた。


今日から転入してくた奴を連れてきたぞー、と生徒達に呼びかける先生に続いて、教室へと足を踏み入れた。
思っていたよりも綺麗だ。今日は風があるからか、カーテンがひらひらと揺れている。

――ぱち、
一人、窓際の席の人と目が合った。小学四年生までの私を覚えていてくれた人とかではなくて、いやそれもあるのかもしれないけど、もっと別の。
お互い、引き寄せられたような。
桃色のツインテール。いつまでも色褪せない、私の初恋の思い出だった人。


「霧野、くん……?」
「なまえ……だよな」

お互い、同時に零れ落ちたことば。
以前のように「蘭丸くん」と呼ぶのが気恥ずかしくて、名字になってしまったけど。

私は、ずっと思い出の中の人だった彼と、再会を果たした。


転校生に興奮し騒いでいる生徒とは別の、二人だけの世界に入ったような気分だった。
お互い声を大きくして再会を喜んだりはしないけど、お互いがお互いの存在を認識して、微笑みあっただけの再会。
それでも私はひたすらに嬉しかった。
子供の頃の、ちいさなちいさな、「かっこいいなあ」なんてそれだけの恋だったけど、それは確かに私の初恋だったのだ。

先生に言われた席は、運がいいことに霧野くんの隣だった。
よろしく、と私なんかよりよっぽど綺麗な笑顔で笑いかけられて、どきりとする。
あの頃の笑顔と重なった。
背は伸びたのだろうし、顔つきも大人っぽくなったけど、そこは昔から変わらないんだね。

「霧野くんが同じクラスだなんて思わなかった」
「蘭丸って呼べよ、前みたいにさ」
「ら、蘭丸くん……」
「蘭丸」

中学三年生にもなったからか、下の名前なんて、ましてや呼び捨てだなんてとてもじゃないけど恥ずかしすぎて下を向く。
それでも呼び捨て、と視線とともに訴えかけてくる彼に負けて「蘭丸」と呼べば、「久しぶり、なまえ」と頭を撫でられた。

誰にでもそんなことしてるの?
顔も性格も行動も、全部全部王子様みたいで女子の憧れの的なんだろうから気をつけてほしい。
好きだったのは転校する前の小さい時だったはずなのに、顔が熱い。
昔のことでも、「好きだった」ことを体が覚えているかのようだった。


部活に行こうとしている彼はスポーツバッグを肩から下げていた。
運動が得意だったから、運動部なのだろう。サッカーが好きだったことも知っている。

「サッカー部なの?」
「ああ」

サッカー好きだったもんね、と昔を思い出す。
昼休み、クラスメイトとサッカーしている姿を見ていた記憶がある。
今度はよく知ってるなと笑った彼が、私に質問をする番だった。

「何部入るとか決まってるか?」

え、と彼の目を見つめる。部活には入らないつもりでいた。
中学三年生の夏なんて微妙な時期に転校してきたせいで部活に入りづらいし、勉強するべきかなぁとなんとなく思っていた。
なんで?聞き返して、髪をくるくると弄る。

「サッカー部見に来いよ」
「ええ?」
「すごいからさ。な」

このあと用事もなさそうだしなーと背中をぐいぐいと押されて、教室から出る。
部活見学に行くのは、もう既に決定事項のようだ。
彼の言う通りこのあと用事もないし、お言葉に甘えてお邪魔しよう。
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