ミッドナイト・イミテーション
夜中の散歩中、ふと見上げた空が偽物だったらどうしようなんて不安になった。
ばかみたいだ。
空が偽物だろうが本物だろうが、今の私に関係なんて少しもないのに。
でも、隣を歩くマサキが偽物だったらどうしよう。
私に関係ない、なんて冗談でも言えないな。
「マサキ」
不安を掻き消すように、彼の名前を呼ぶ。
元を辿れば五十音の“ま”と“さ”と“き”なのに、どうしてその響きすら愛しいのだろう。
緑色でぴょこぴょこと外側にはねた髪を触りたい衝動をぎゅっと抑えて、返事を待つ。
「何? いきなり」
「……ううん、なんでもない」
マサキは言葉にすら出さなかったけど、顔は「変なの」と物語っていた。
自分が意味わからないことしていた自覚はある。少し。
「あのさ、もし今マサキの隣を歩いてる私が偽物だったらどうする?」
え、と零してそのままマサキは固まった。
考え込むような仕草をする彼を尻目に、夜空に爛々と浮かぶ星座を見上げた。
BGMのようにマサキの返事が聞こえる。
「どうもこうも、なまえは本物だろ」
「それはそうなんだけど」
あくまで例え話です、と睨みつけて、固まった彼の手を引いて前へ前へと進んだ。
でも確かに、その通りかもしれないね。
どうもこうも、何があっても、今ここにいる私は本物だ。
「いきなりなんだったんだよ? 熱でもあるの?」
私の顔を覗き込むマサキは無視した。
この夜空が、偽物なわけない。
いくら偽物だったらどうしようと不安になったってやっぱり夜空は本物なように、マサキだって私だって本物よね。
「熱なんてないよ、失礼だな」
ばちんと彼のおでこにデコピンを食らわせて、足早に帰路についた。