子守唄が滴るまで


ふと目が覚めた。
朝かと思って窓の外を見てもまだ暗がりのまんまで、もう結構使い古した携帯の画面に視線をやった。
充電器を刺したままだったからか、画面は点灯しっぱなしだ。

「まだ二時なの」

結構寝たと思ったはずなのになあ、と小さくため息をついて、もう一度ふかふかの布団に沈みこんだ。
隣から「ああ、」と声が聞こえる。
起こしてしまったのだろうか。

「ごめん、起こした?」
「いや、普通に起きた」

気配とか? と笑っても、彼は眠そうな瞳のままだった。
「おはよう篤志」と声をかけても、おう、とぶっきらぼうな返事しか返ってこない。
ふわあ、と欠伸もしている。
篤志はやさしいから普通に起きたとか言ってるんだろうけど、絶対私が起こしてしまったと思う。
申し訳なさでいっぱいだった。

暫くして目が覚めたのか、篤志は上体を起こしてぴこぴこ携帯をいじっていた。
私は、そんな彼を寝転がったまま観察している。

「篤志」

小さく、小さく、名前を呼んだ。

「なんだよ」
「眠い」
「寝ればいいだろ、なまえ一人で」

冷たいなあ。そう笑う。
せっかくお泊りしてるんだから、構ってくれてもいいのに。
彼は携帯から視線を離さないし、それどころかこちらをちらりとも見ないし。
ゆるくはだけた篤志のロンTの襟を掴んでみる。

「子守唄ー」

歌って、とは言わずに、名詞だけで伝えようと無茶ぶる。
篤志は、私の言いたいことをちゃんと汲み取った上で無視。
ねーえー、なんて子供みたいに駄々をこねると、やっと言葉が戻ってきた。

「可愛くおねだりしてくれたら考えてやるよ」
「やだそういう趣味?」

知らなかったよ……と引いた様子を見せたら、ばしんと頭を引っ叩かれる。

「ああそうか、じゃあ歌わないからいい」
「ごめんね? お願い篤志、子守唄歌って?」

おねがあい、と気持ち悪いくらいあざとくぶりっ子しておねだりした。
あーあ、なんて言いながらも私の傍に肘をついて寄り添って、その綺麗なバス程低くない声で歌ってくれる。
なんだかんだいつも優しいのだ、南沢篤志という男は。

「私、篤志の声好きだよ」
「……そうかよ」

子守唄が滴るまで、夜が明けるまで、あなたの声を聞き続けていたいな。
言おうと思ったけど言わなかった。
ありがとうと一言呟いて目を閉じたら、もうそこからの記憶はなくなる。
おやすみ篤志。
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