愛してるとだけ言わせて
テレビの向こうにいる彼をじっと見つめる。
シニアデビューで堂々と金メダルを飾り、その後も数々のメダルを手にしてきた男、ユーリ・プリセツキー。
――好きだった。否、今も好き。
こんなことを言ってはいるけど、現在進行中の恋人である。
もう何ヶ月も目にしていないけれど。
彼はまさに今をときめくスターで、それはもちろん多忙なわけで。
彼が多忙なのは知ってる、だけど淋しいことに変わりはないのだ。
電話をかける、メールをするなんてもう試したけどやめた。意味が無い。
電話をしたくても寝ていたりで時間が合わない。
メールは最終的に返ってこない。
もしかしたら同じ大会にでる女子選手に現を抜かしているのかもしれない、言い寄られているのかもしれない。
そんな不安だって生まれてくる。
テレビ中継されていた大会も終わり、最後の履歴が半月前になっている彼とのメッセージを開く。
――ねえ、会いたい
そんな文を打っては消してを繰り返す。
重いなんて思われたくなくて、送れなかった文。バツのマークがついたお馴染みの消去ボタンを押していると、いきなり緑色の吹き出しマークが、ぽん、と誰もがよく聞く音を立てて現れた。
メッセージは――会いたい。
「うそ……間違えて送っちゃった」
消去ボタンのすぐ上にある送信ボタンと間違えてしまってた様だった。
次の大会まであっちから直通で行くかもしれないし、こっちに帰ってきてもリンクにいるかその近くにある彼の自宅にいるわけだからすぐに会えるはずもなく、どうにでもなれという気持ちを込めて眠りについた。
ぴろん、ぴろん
何件も連続してメッセージの通知が鳴る、その音で目が覚めた。
何事だよ、と思いながら通知を見ると――思い焦がれたユーリだった。
ばっと起き上がりまじまじと画面を見つめ、メッセージの内容を読み上げる。
「えっと、『外みろ』だって?」
どうして、と不安に思いながら自室の窓を開ける。
「待たせて悪かったな」
――そこには、にやりと笑うユーリがいたのだ。
ああもう、何やってんだこの人。
いきなり会いに来るなんてなかなかできないでしょ。本当に好きだ。
そんな思いを抱きながら、急いで外に出て、ぎゅっと彼に抱きついた。