はあ、と深いため息が零れる。
のろのろと歩きながら向かう教室は、いつもよりも遠く感じた。

「なんだかなあ、行きたくない」
「何がだよ、」

天井を見上げて、なんとなく言ってみた独り言。
それに返事が返ってくるなんて思いもしていなかったからとてつもなくびっくりした。
誰だよと振り向くと、勝己くんの顔があった。

「あ、おはよう」
「今日はベタベタしてこねぇのな、何かあったのかよ」
「……なんでもない!」
「そうか」

じゃ先行くね、と答えを待たずに走り出す。
なんだかんだ言って私の変化に気づいた勝己くんはすごいと思う。
自分でだって気づかなかったのになあ。
ぐるぐると脳をフル稼働させながら、、ぱたぱたとシューズから鳴るうるさい音に意識が向いて足を止めた。
目の前は大きすぎる程のドア。
ゆっくりと開けて――目当てだった一Aの教室へと入った。

.

「ふむ、それでなまえさんは悩んどると」
「そういうことになりますねお茶子さん」

何その呼び方! とふざけるお茶子と私。
こんなに脱線してはいるけど、元の話は『勝己くんが私に好きって言ってくれない』である。
言ってくれないなんてまだいい方で、若しかしたら思ってすらいないのかもしれない。
そう零したら、なんだか泣けてきた。
お茶子は爆豪くんも言わないだけで気持ちはあると思うよ、と優しく私に微笑みかける。

「恥ずかしいんだよ、きっと。
爆豪くんだって嘘をつく」

さわさわ、と放課後の教室に風が吹きいる。
それと同時に、私たちの間にも沈黙が続く。
じっと見つめたお茶子の瞳には薄く涙の膜が張っていて、それが何故か綺麗で、妙に見入ってしまった。

「……私、頑張るよ、色々と」
「それがいいよ、応援しとるからね」

じゃあ帰ろうか、と私達は教室を後にした。



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