せつない


薄暗いバーは、寝起きの私の目には優しい。
朝食のマフィンをトガちゃんに出してもらって、ちびちびと食べる。
朝食――とは言っても、私が起きたのは真夜中で、弔くんはいなかった。

「最近私を置いていくんだよね、」
「弔くんが?好きなの?」
「まあ、」

トガちゃんとの恋バナ、ってなんだか不思議な感じだ。
彼女は恋バナなんてせずに、とりあえずアタックして好きな人自身になりたくて刻んじゃいそうなのになあ。
そんなことを思いながら、食べ終わったマフィンの紙型を握りつぶす。
零れ落ちたかすを指先で集めて、舐める?なんてトガちゃんに差し出すと、何故だか嬉しそうな顔をしながら舐めとられた。

「本当に舐めると思わなかった」
「なまえちゃんがくれたものならなんでも受け取るよ!」

病んでるぜ、と思ったのは置いといて、黒霧さんのワープゲートで帰ってきたであろう弔くんに目を向ける。
彼が四本指で首を掴むようにして連れてきたのは、ぼろぼろに傷ついた男だった。

「弔くん、それ誰――」
「なまえ、」

怪訝な顔をした私の問いかけには答えることなく、名前を呼ぶ。
いつものニヤニヤした顔じゃなくて、私を見据えて真剣な顔をしているのが、なんだか弔くんじゃないみたいで怖い。
ひゅっと息を飲んだ。
次の言葉を発するのは、弔くんの方が早かった。

「こいつを殺せ、なまえの個性で」

――俺が目をかけたお前の個性ならできるだろ?

は、と声を漏らして弔くんを見つめる。
なんで私なのか、よく分からなかった。
だって、弔くん自身で殺せる相手だから。
既に瀕死の状態なのに……

「な、なんで私?弔くん自分で殺せばいいじゃん、」
「久しぶりになまえが個性を使ってるのが見たかったから」
「……っ、わかった」

殺したくなかったけど、仕方なかった。
私はきっと――ううん、絶対に個性しか必要とされてないから。
弔くんの「好きにならねえの?」だって、私が弔くんに惚れれば個性を使う、と思ったのかもしれない。
わかりきってても私は彼が好きだから、やるしかなかった。

「あなたはこのまま、私に殺されないと思いますか」

個性――断罪。
私の質問に答えなかったり、嘘をついたり、私の考えた“法”に反することだったら、自分で決めた罪で裁くことが出来る。
死刑にだって出来るのだ。


  
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