つたない


ふわふわ、そんな言葉が似合うような視界のぼやけ方。

「私のこと?んー、個性使いすぎると出血する!!」

あれ、私なに隠してたこと言ってんだ?
言ったら心配……されないか。
目の前の弔くんにドサッと倒れ込んで、これ何なの、と聞いた。
ニヤリと笑った彼の顔が目に入って、あ、これなんかまずいヤツじゃないの、なんて危険信号わんつーすりー。
私の体内の信号は、狂ってはいなかったようだった。

「これ?あぁ――リンゴサワー?だっけ、甘めのやつ」
「え、」

お酒かよ〜、なんて間延びした口調でべちべちと弔くんを叩く。
本当はもっともっときつい口調で言いたかったのに、身体がいうことを聞かない。

「……弔くん、すき」

お酒のせいにしてしまおう、と私の感じた感情を思いのままに呟いた。
珍しく顔を赤く染めた弔くんは、行くよ、とだけ呟いて部屋へと連れ出した。

.

「っ、は、」

妙な息苦しさで目が覚めた。
午前八時の私の夢。
――夢、ではなかった。

少々、いや、かなりの息苦しさを感じて自身の右側に視線をずらすと、私に骨が折れそうなほどの強さで抱きつく弔くん。
あの、骨ギシギシいってます。

「……あのー、弔くん……」

起こそうと手を伸ばした時に、私の脳裏にフラッシュバックした昨日の出来事。

『……弔くん、すき』
『――っ、行くよ、』

かあああ、と漫画のような、ばかみたいに顔が真っ赤になるのがわかった。
何言ってんだ私。その場の勢いすぎるよ、確かに好きだって気づいたけどさ。
はああ、なんて重い溜息と共に照れも吐き出す。
躊躇ってしまった手を伸ばすこと。
もう一度、彼の頬をそっと撫でた。

「はよ、なまえ」

弔くんはいきなり起きたと思ったら、突然だけど先生と話があるから行くね、と私の頭を撫でてから扉の方へと歩き出す。
ぎゅっと心臓が締め付けられるような、そんな痛みが胸を裂いた。

「――行かないで、どこにも……あ、ごめん、どこにも行って欲しくない、なんて」
「……早く帰ってくるよ」

ゆっくりと、彼に向けてつたない言葉を紡ぐ。
少しだけ頬を緩ませて、わしわしと激しく私の頭をかき乱してから、ばたんと扉を抜けていった。


  
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