あっけない


「フレンチトースト、好きですね」

うん、まあそれなりに。
そう黒霧さんに笑って、夕食――というより夜食――には相応しくないフレンチトーストをフォークの側面で適当に切って口に運ぶ。
弔くんは「先生」って人と話しているから、今私は一人だ。
弔くんは普段絶対に私を一人にしないから、こんなことは初めて。

黒霧さんはとてもいい人だ。
いい人というより常識人、私の中では。
弔くんに怖がる必要も無くて気が楽なつもりだったのに、彼がいない私の隣はぽっかりと穴が空いているようだった。

「寂しそうな顔をしていますね」
「え?……いや、そんなことはない、はずです」
「はず、ですか」

指摘されて初めて気づいた自分の表情に羞恥心が湧いて、両側から熱い頬を抑え込む。
あんな迷惑な奴がいなくて嬉しいはず。寂しいわけなんて……なく、ないのかもしれない。
なんで?どうして?好きだから?今まで一人にされてなかったから?
思考の整理がつかなくて、理由もわからなくて、とにかくフレンチトーストを詰め込む。

「なァ、久しぶりの一人はどうだった?」
「寂しいのかもしれな……って、弔くん、別に」
「寂しかったんだ?」

後ろから、ぎゅうっときつく。
骨ばった手が私の腹部に回される。
あまり暖かくない体だ、弔くんはきっと低体温なのだろう。
高体温気味の私からすると、とても冷たい。
ただ温度は冷たくても精神的にはどこか暖かくて、ふっと笑みが零れる。

「……すき、なのかもな」
「なんか言った?」
「別に、なにも」
「死柄木弔は――少し損をすることもあるんですね」

はァ?と黒霧さんの問いに半ギレで対応する弔くん。
そんなことは置いといて、とばかりに黒霧さんにジュースをお願いする。
オレンジジュースかリンゴジュースかカルピスで。
なんて言うと、隣から「酒飲めよ」なんて声がした。

「私未成年」

だから遠慮しとくね、と苦笑いで出されたカルピスを一気飲みする。
ふ、と一息ついてグラスをテーブルに置くと、側には薄い黄色の色味をした飲み物が置かれていた。
リンゴジュースってこんな色だっけと思ったけど、きっと気の所為。
まあいいかな、とそれもまた一気飲み。


  
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