……かもしれない


「……腰が痛いよ弔くん」
「知らない」

引き寄せる力が強くて腰が痛い。
女の子にかける力じゃないよこれ、とぺしぺし弔くんを叩く。
昨日ぼろぼろにされた首には包帯が巻かれていて、ガーゼと擦れる部分に鋭い痛みが走る。
でもそんなに痛い傷も、弔くんに付けられたものだから、痛みだってなんだっていいんだ。

以前トガちゃんのことを「病んでるぜ、」と表現したけれど、人のことは言えないらしい。
私だってそうだ。
弔くんに与えられるものなら痛みだってなんだって私限定で独り占めしたいものなのだ。

「離して、苦しいー、」
「ふーん、いいんだ」
「やっ、やっぱ嫌!」

まだ朝早くて、いつもなら寝ている時間。
私、寝ることは大好きだけど――今日だけは、早く起きててよかった、と思ってしまった。
もふもふの掛け布団に潜り込んで、昨日の弔くんの言葉を思い出す。
今はお前が俺のことを好きって言ってくれた嬉しさだけでいい――なんて、弔くんらしくないなぁとにやける。

傍から見たら変人だ。
でも彼はいつもだったら問答無用で殺してしまいそうなのに。
嬉しくなる私の気持ちもわかって頂きたい。
好きな人のことになると甘いんだな。
自惚れかもしれないけど、別にいいよね。

「……弔くん」
「何?」

愛しくなって呼んだ彼の名前。
何度も「とむらくん、」ってゆっくりと、反芻するように名前を口にすると、なんだよ、と後ろから包み込まれる。

「――すきだよ、」
「何?恋人ごっこ?」
「そう思っただけ!」

彼と生きていられるなら、恋人ごっこだっていいよ。
そんなのは、今好かれているのを知っていて、恋人ごっこではない私のただの余裕……かもしれない。


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