夢のない


は、と目が覚める夜中。
午前三時。
簡素な自分の部屋に置かれたベッドに横たわる私の身体は重くてだるさを感じたけれど、それに抗って上体を起こす。
暗いところでは色のない様に見えるが、一応薄桃色のシーツと枕、ふかふかの掛け布団には赤く血がついていた。

なにかしたっけ、と思いながらも気にせず鏡を見ると、鼻からだらだらと鮮血が流れ出している。

「鼻血って……寝てる間にとか最悪」
「なまえ、起きたなら言ってよ」

けっ、と物凄く嫌な顔をして腕で拭うと、鏡に映る私の背後から、同じベッドで寝ていたであろう怪しげな男が浮かび上がってきた。
怪しげな男――死柄木弔は、私の部屋によく来る敵連合の奴だ。
自分の部屋には一歩たりともあげないくせに。

私は敵ではない、一応。
しかしヒーローでもない。
ただ個性が敵こっち向きだからという理由で連れ去られて、弔の隣の部屋に住まわされている。
――住まわされている、というより軽く目が届く範囲に閉じ込められている状態なんだけど。

「……おはよ」
「それより俺のこと好きにならねえの?」
「弔くんみたいな人は無理」

優しくて、かっこよくて、私を笑わせてくれて、私を愛してくれる人。そんな人がいいなぁ。
口には出さずに、ふふ、と笑う。
そろそろ力づくで手に入れようか、とか何とか言いながら、五本全ての指が触れないようにして私の首を掴もうとする。

ぺしんと叩いて、弔くんが好きなのは私の個性でしょ、夢がないねと明るい笑顔を向けた。

「……つまんないの」

不機嫌そうに私のベッドに倒れ込む。
血液が乾いて茶色くなっていた。これはもう落ちないな。
目を閉じた弔くんの頬にそっと触れて、呟く。

「嫌いなわけじゃないんだよ」

だからと言って好きでもない。
だって弔くんが好きなのは私の個性・断罪だから。
私自身も見てよ、ねえ。

多分弔くんは起きていたと思うけど、返事はなかった。


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