物足りない


「わかれよ!私だって嫌な時くらいあるの!!」

涙でぼろぼろ濡れた頬と、歪む視界。
わかってた。
どうせ連れ去られて、情けで殺されないご身分だって。
私の命を奪うことなんて、敵連合彼らには容易い事なんだって。
――わかってたって、辛い事もあるのに。

「俺はお前が――なまえが好きだよ、なんで、」
「どうせ弔くんが好きなのは、私の個性でしょ?」

珍しくて、汎用性高くて、敵向き。
ヒーローではない、でも敵でもない。
だから人だって殺すのは嫌だけど、弔くんのためだから。
そう思ってたんだけど、私にはきつかった。

「ていうか弔くん、私の個性以外に見たことある? 性格、癖、どんなことを話して、どんな反応をするのか」
「あるに決まってるだろ」

かなり苛ついた顔をした彼が、より強く私の胸ぐらを引き寄せる。
ぎゅっと首が締まるのには気付かないふりをして、饒舌になった私は更にペラペラと話す。

「私は弔くんのことっ、こんなに……こんなに好きなのにさあ……」

弔くんは私のこと、絶対に好きになってなんかくれないよね?
そう言い終わったと同時に、涙がさらに溢れ出す。
こんな量どこから出てるんだろう、と私の頭は思ったよりも冷静だ。

「俺だって好きだって言ってんじゃん、何で聞かないんだよ」
「じゃあ私が無個性になっても好きでいてくれるの? 」

冷たい視線と真顔でそう言うと、弔くんも真顔になる。
私の胸ぐらを掴んだ手が緩んで、すっと私は地面に足をつけた。
ふるふると震えだした弔くんの名前を呼ぶと、ガッと肩を掴まれ、ベッドの上に強く押し倒される。

「なんて答えたら満足するんだよ」

私自身を好きだよ、って言ってくれたって、もう物足りない。
行動で示して、私を愛して。


  
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