出来ない


あれから弔くんは、何度も私に「こいつを殺せ」という命令を繰り返していた。

――あれ、なんか私利用されてる?

ふと私の頭に浮かんだのは、その言葉だった。
でも間違ってるのは私の考えなんだって、頭のどこかではわかってる。
私は連れ去られて来たんだ。
もともと利用する目的以外に、どうして連れ去りなんてするのだろうか。
あくまでも、私は“命を握られている”訳であって、私自身を好きになって欲しいだの見て欲しいだの言える立場ではないのだ。

ひどくせつなくなって、冷蔵庫に入っていた缶チューハイを煽った。
初めてカクテル以外のお酒を飲んだけど、少し苦味があって、顔を顰める。

「苦っ……」

少しだけ缶を潰して、カウンターに乱暴に置いた。というより叩きつけた、に近い。
後ろには多分、弔くんがいる。
気づいたけれど、声をかけることはしなかった。

「なまえ、殺せ」

後ろから、いつも通りの命令をされる。
やっぱりいた。
いつもならすぐに返事をするのに、今日はすぐに返せなかった。
――返したくなかった。

このまま私は、自分自身を好きでない人のために個性を晒し続けなければならないのか?
そんな疑問が頭を過ぎる。
私はこんなに好きなのに、私も好きになってくれるかわからない人のために?
だったらいっそ、

「っ嫌……私には出来ない、」
「……は?」

不機嫌になったその感情のままに私を殺せばいいよ。
弔くんは私の腕を乱暴に掴んで、私の部屋へと向かった。
ぎりぎりと腕が音を上げる。
血が止まって冷たくなりかけた指先が痛い。

.

「っどうしてだよ!なんで俺のいうことを聞かない?!」
「嫌だからだよ!!」

ガリガリと首をかいた後、私の胸ぐらを掴んで叫ぶ。
そんな弔くんに負けじと私も胸ぐらをつかみ返して、今までにないほどの大声で喚いた。


  
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