▼ おまじない
「なまえ、さすがお前の個性だなぁ……」
「……ありがとう」
ベッドの上、数日前に固まった茶色い血液もそのままに抱きしめられる。
でも褒められてるのは、私の個性。
私自身じゃなくて、個性。
個性個性個性。なんでも個性。
そんなに好きかよ、って言いたいくらい。
最近は少なくなってきたと思ったのに、先程の出来事からいきなり増えた。
連れ去られてすぐの時に戻ったみたいだ。
「これからも俺のために使えよ」
「考えとくね」
ぼすんとそのまま倒れ込む。
寝よう、何も考えたくない。
目を閉じた数秒後、私の意識はふっと途切れた。
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一ページも書き込んでない日記帳の上で、カチカチとシャーペンの芯を出す。
し、が、ら、き、と、む、ら。
七回分押して芯を出して、力を入れすぎないようにハートを書いた。
今やっているのはおまじないで、好きな人の名前の文字数と同じ回数分芯を出してハートを書き、塗りつぶせたら両想いになれるというもの。
目覚めた時には隣にいなかった弔くんのことを考えていた時に、ふと思い出したものだった。
最後にやったのは確か、小学生の時。
あの時は塗りつぶせたなあなんて懐かしみながら、ゆっくりとシャーペンを動かす。
「何やってんだろう、私……」
どうして今、おまじないなんてしてるの?
そんなことを自分に問いかけても、答えは返ってこない。
返す気にもならない。
ポキ、と音を立てて、半分ほど塗り終えたところで折れた。
芯も心も。
こんなことしたって、弔くんはきっと私自身を好きになんてならない。
でも逆に――そんなおまじないなんてことする程には、私は弔くんに惚れていた。
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