彼女の柔らかな声が僕の名前を呼ぶ。それだけで心臓がどきりと一層うるさく鳴る。脳に酸素を送って思考を活性化させる。

あきらくんあきらくん。

僕の名前ってこんなにも崇高な名前やったやろうか。

何回でも聞きたくてつい黙って聞き耳をたててしまう。遠くの彼女が呼ぶのをじっと待つ。よく呼ぶのは昼休み。一緒に弁当食べようと誘う声。実は授業中も呼ぶ。あきらくん、この問題なんになった?あきらくん、当てられとるよ。

聞く度に心が暖かい。誰が呼ぶのとも違う響き。名前呼ばれるだけでこんな気持ちになるのはおかん以来やで。

思わず彼女をジッと見つめると、僕の視線に気がついてにっこりと笑った。まさに花が綻ぶように。

ああ、僕、声だけやのうて彼女の笑顔も好きや。

「どうしたん?御堂筋くん」

それが僕のものじゃないとしても。

「よく通る声しとるから見てもうてん」
「え、あれ、うるさかったかな?ごめん」

僕の一言で慌てたように笑顔を消してしまうから残念に思う。やっぱり僕やない。彼女の笑顔だすのは彼が一番上手い。そんなことを考えていると、僕の後ろから男前の声が降ってくる。

「なんかあったん?」

バスケ部所属の背の高い目つきの悪い男。でもお人好しでこの僕がええ奴やと認識してる数少ない人間。

そんで彼女の恋人。

「あ、彰くん。あたしの声でかいかな?」
「でかいな」

えぇ〜!即答なん?と嘆く彼女の声は確かに大きいけれど、嫌な要素なんてひとつもない。ただ、愛おしいその声で名前を呼んで欲しい。

「うるさかったやろ。すまんな御堂筋」
「ごめんな」
「ええよ」

謝らんでええよ。君には感謝しとるんやから。


つながる、つながらない


二人ともずっと仲良しでおってな。
そんでもっと名前呼んで。


120510