マギの中ではアラジンの次に紅覇様が好きです。 そんな縁の妄想の産物。
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遠征から帰った紅覇を一番に迎えたのは五つ年上の正妃であった。
鴉の羽を濡らしたように滑らかな髪に簪を申し訳程度に挿している。皇太子妃でありながら質素な装いの少女。目を引く美貌を持っているが、それよりも目を引いてしまうのは彼女の顔に刻まれた刀傷だろう。 左眉の上から頬の下までの大きな切り傷。傷のせいで左目は開きはするが視力は無い。 誰もが目を引く少女の顔を台無しにしてしまっている。
「紅覇様が外出を禁じらましたので拙めは退屈で退屈で死んでしまうかと思いましたよ」
開口一番に恨み言を言われ、更にじろりと恨みがましく睨まれて紅覇は軽く肩を竦めて見せた。
「だってお前に簡単に外出許可出しちゃうとほいほい街に出るからね〜」
「ええ、ええ、それでお言いつけ通り拙めはお屋敷で寂しく紅炎様からお借りした本を読み耽り、紅明様から回されてきた書類を片付け、紅覇様のお洋服を繕い、紅玉様と語らい、その他諸々の庶務を済ませ、遠い遠い地へと旅立ってしまわれた夫の身を案じながら心配と寂しさで枕を濡らす日々を送らせて頂きましたとも」
「枕は濡らしてないでしょ〜?」
「おやバレましたか」
「お前はそんな愁傷な女じゃないだろ。僕の妃は僕に何かあったら嘆き悲しんで涙を流す間も無く兵を引いて駆け付けてくるような女だよ」
「然り然り。それで?どうなさいます?」
「なにが〜?」
「お食事か、お休みか、どちらになさるか?と問いました」
「ああ、そういうこと。ならまず休みたいなぁ。勿論疲れた夫の為に添い寝くらいしてくれるんだろ〜?」
「ついでに子守唄でも歌って差し上げましょう?」
悪戯を楽しむ子供のようにくすくすと笑っている妃の手を取り、歩き出しながら紅覇も笑った。 この軽口の叩き合いで紅覇はようやく安らぎの場所に帰ってきたと実感する。
「ああ、そうだ。お帰りなされませ、紅覇様」
「ええ〜、遅くない?そういうのは開口一番に言うものでしょぉ」
「それはそれは申し訳ありませんでした。紅覇様が傷も無くご無事な姿を見ましたら安心しまして、思わず嫌味が先に出てしまいました」
「はいはい、そこまで寂しくさせた僕が悪かったよ」
心なしか拗ねたような顔を浮かべる妃の顔の傷に口付ける。
「ただいま、牡丹」
紅覇を嫁が出迎える
2014/12/30 23:53 ( 0 )
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