悪の教典×OP 教典サイド2 晨光学院町田高校2年4組。 去来川舞成り代わり。名前は去来川柊。 特殊ヒロイン。
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子供にとって《死》と言うものは遠い遠い世界のことだ。 決して身近なものでなく、自分にそれがやってくることなど考えもしない。
しかし《死》の可能性と言うものは様々な所に溢れている。 普通に歩道を歩いているだけでいきなり車が突っ込んでくることだってある。 ただ買い物をしていた時に通り魔に襲われることだってある。 転んで頭の打ち所が悪くて死んでしまうことだってあるし、知らずの内に病に罹り唐突に余命宣告を受けることだってあるだろう。
であるのに、子供というものは《死》を遠い世界の事象であると考える。 それはきっと《今》を生きるのに精一杯で、尚且つ《今》が楽しく、《死》を意識することがないからだろう。
しかし老いも若きも男も女も関係無く《死》は訪れる。
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「最初から貴方が嫌いでした」
柊は震えそうになる身体を制しながら眼前の男を睨み付けた。
「一目見た瞬間から、貴方が気持ち悪くて不快で悍ましくて大嫌いでした。今でもそうです。そしてこれからもずっとそうです。噎せ返るような怨嗟と血の匂いをこびり付かせた貴方が汚らわしくて堪らない」
銃を携えた担任は未だにきょとんとした顔で柊を見ていた。 彼が撃った散弾銃の弾丸は全て不自然に逸れて柊には掠りもしなかったからだろう。
その顔が演じているわけでもなく素で驚いている。彼の仮面を一枚剥ぎ取ってやったという優越感にほんの少しだけ溜飲が下がった。
「蓮実聖司。貴方は尾の無い化物だ。誰かの感情を理解出来ず、誰かと何かを共有することも出来ず、人とはかけ離れた存在であるクセに人の振りをする人でなし」
淡々と罵っていると彼は、蓮実は、獲物を定めた捕食者のような顔で柊を見る。にい、と歪ませた口元から覗き見えた犬歯が不気味だった。 その歪ませた顔のまま蓮実はもう一度柊に銃口を定め、何の躊躇いも無く引き金を引く。
乾いた銃声が響く。硝煙が上がる。撃ち出された弾丸が散らばる。――けれども弾丸は、柊には届かず。 手で払う様な動作と共に散弾は柊から逸れて壁や床に着弾した。
「Magnificent!凄いじゃないか、去来川。一体どうやったんだ?」
「貴方には関係無い」
ばっさりと切捨ててみせた柊に蓮実は気味の悪い笑みで返した。
「……確か、君は小さい頃『魔女』と呼ばれていたそうだね?それと何か関係があるのかな?」
「貴方には関係無い」
知られていたのは想定内だ。だから柊は動じるような素振りを見せない。
柊が今最優先でやらなければいけないことは最高の時間稼ぎだ。そして最小の被害で終わらせなければならない。 蓮実による校内放送の後、彼はこれから校内を回ってクラスメイト達を惨殺してしまうだろう。 それだけはダメだ。だってここには片桐もいるし、小野寺もいる。友人を見捨てられなかった。守りたかった。
「貴方が嫌い。大嫌い」
何時だって《死》は身近だ。 内心柊を殺したい位恐れていた父も母。ただ歩道を歩いていただけで彼らは死んだ。 『魔女』と言って柊をいじめた小学校の時の同級生。彼女は通り魔に襲われて死んだ。 近所で柊に石を投げて遊んだ青年。階段を踏み外し、頭を打って死んだ。 ――ただ街でぶつかった女性。彼女は病魔に侵され既に長くなかった。
柊の傍は《死》が溢れている。 幼い折から、《死》は隣にいた。 恐ろしかったけれど、そういう感情から目を逸らす術はもう持っていた。 だから、蓮実聖司がどれだけ恐ろしくても、平静を装える。
怖い。怖い。怖い。蓮実が怖い。けれど、片桐や小野寺が死んでしまう方が――怖い。
「――だから、貴方の思い通りになんて死んでもさせない」
長い夜が、始まる。
蓮実聖司と現の中2
2014/11/16 21:05 ( 0 )
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