漫画版悪の教典×OP 晨光町田高校2年4組。去来川舞成り代わり。特殊ヒロイン。名前は《去来川柊》。 なんか満月の夜に夢の中でイゾウさんに出会う。
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目を開けたら夜の草原が広がっていた。草原が広がるばかりで建物は一切姿が無く、地平線は夜と同化していた。 何処からか鈴を鳴らしたような虫の鳴き声と風に靡いて囁く葉の音がする。 空を見上げれば満点の星空が広がり、大きな大きな満月がぽっかりと浮かんでいる。
はて。ここは一体何処だろう。近所にこんな所はあっただろうか。現代のコンクリートジャングルに囲まれた東京でこんな所は稀だろうに。 いや、でもそれよりも問題は、いつの間にここに来たのかということだ。
無意識の内に歩き出してさく、と草を踏む感触に気付いた。――裸足だ。 裸足の足元から視線を上に上げていく。 着ている服は学校の制服でもなければ私服でもない。只の寝間着だ。
ここでやっと柊は自認した。
「そうか、夢の中だ」
ここはきっと夢の中だ。現実の自分は自宅ですやすやと寝息をたてていることだろう。
夢を夢であると気付いた夢は明晰夢と言うのだったか。 つらつらと明晰夢について考えながら、柊は自然と足を進めた。行き先はわからない。 ただ柔らかな草と暖かい土の感触が心地よかった。
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特に何も考えずにさくさくと夜の草原を歩いた。そうして見えてきたのは大きな大きな柵だった。
最初の場所からは見えなかったのに、歩を進める毎にぼんやりとした輪郭が現れて、近付くにつれ輪郭はしっかりと形作った。 それは上を見上げど頂は見えず、横を見渡しても果てが見えなかった。大きな大きな柵はただ柊の眼前にあるだけだ。 こんなに大きな柵は見たことがない。そして所々に施された装飾も見事だった。
頂も無く果ても無い見事な美しい柵。 ただただぽかんと柵を見上げて、頂が夜空に溶けているようだ――あながち間違いでもないような気はする――と思ったその瞬間。
「そんなに見上げてると後ろにひっくり返っちまうよ、お嬢さん」
まさか自分以外の声を聞くとは思わず、びくりと肩を揺らして夜空から目を離した。 慌てて声の主を探せば、柵を挟んだ向こう側に人がいる。
女性のような男性だった。線が細いが、決して華奢ということはない。緩く結ばれた黒髪に着崩した着物。一見女性に見えたが、崩された着物から覗く胸板がその性を否定する。 男の艶やかな姿に最近やっと16になったばかりの小娘の目には毒だと思った。
柵の向こう側、男が立つのは十夜がいる草原とは対象的に果てのないような大海原が広がっている。 静かな海岸に穏やかに波打つ潮騒と、大海原に浮かんだ大きな満月。
「へえ、そっちは草原か」
薄く目を細めて「綺麗だな」と語りかける男に柊は呆然としながら「こんばんは」と言った。
イゾウさんと夢の中
2014/11/04 01:18 ( 0 )
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