五十鈴がプロシュートを保護してから早半月。結構良い関係を築けていると思っている。 彼が完全に五十鈴に気を許しているということは無いが――無いからこそ――逆に五十鈴がプロシュートに対して完全に気を許していることによく頭を抱えていた。
彼が言うには、年頃の娘が男と同居しておいて危機感が無さ過ぎるだの、プロシュートに対する情報管理が甘すぎるだの、その他諸々、同居3日目にして正座で説教された。延々と説教されて五十鈴もある程度は改心した。――が、一週間程経ちそう大して変わらないことに彼は今も頭を抱えている。 五十鈴に気を許してはいないがどうやら五十鈴の危機感の無さが心配なようだった。
彼はなんだかんだ言って面倒見がいいらしい。 今日も今日とて学校から帰って、イタリアで起きた猟奇殺人の資料をリビングの床に並べて考え事をしていると何も言わずにコーヒーを淹れてくれた。
(美味しいですね)
カップを揺らすといい香りが漂う。 流石本場の人間。彼が淹れてくれるコーヒーは自分が淹れるのとは段違いに美味しかった。
プロシュートとは反して、五十鈴からすればプロシュートはそう警戒するに値しないと思っている。彼を侮っているのではなく、その逆だ。 五十鈴が思うに彼はとても聡明だ。頭の回転も早いし《悪知恵》もよく働くだろう。実戦経験も豊富で追い詰められてもそれを切り抜けようとする精神の強さを持っていると思う。 だからこそ、この状況で「平和的に」と旗を掲げている五十鈴と敵対して無意味ないざこざを生む程バカではない。
そして五十鈴にとって信用するに値した決定打は雪明りの判断だ。彼もまた、聡明だ。 獣としての本能から相手が危険かそうでないかを直感で嗅ぎ分ける。今までも不審者が家の敷地内に入ろうとしたことがあったが、彼らは一歩も入ること叶わず雪明りに捕獲されて敷地外に捨てられている。 彼の《鼻》を五十鈴は最も信頼している。
雪明りが最初にプロシュートを発見して、そのまま敷地外に放り出すでなく五十鈴を呼んだ。それが答えだ。
***
「……まだ、続きますよねえ、これ」
資料を放り出しながら呟いて五十鈴が背凭れにしていた大きなビーズクッションに顔を埋めた。雪明りの方が心地いいが、彼は縄張りの見回りに行っているので今はいない。
『オイ、資料がグチャグチャになってんじゃねェか』
すぐ近くのソファーでヨーロッパの世界史を読んでいたプロシュートが五十鈴の足に巻き込まれてしわくちゃになった資料をいくつか取り上げた。 グロテスクな画像が数枚入っているが、彼の視界に入っても、彼は眉一つ動かすこと無く五十鈴に返す。
『行き詰まってンのかァ?』
『そんなことはないんですけど。ただ、ちょっと人手が欲しいな、と』
五十鈴に依頼が来る事件は込み入ったものが多い。 込み入った事件の中で紙と電子媒体を通じて情報交換が行われたり、場合によっては現地の人間に指示を出したり。 だが、困ったことに、時たま五十鈴の言うことを聞かなかったり、五十鈴のことを信用しきれずに独断で動かれて事態が悪化するということもあった。 今回の案件もこれらに準じる事態が起こっており、もどかしい思いをしている。
五十鈴が顔を出さないからそれは仕方がない。顔もわからず、名前もわからず、一切の姿がわからないために信用、信頼されにくいのは仕方がない。 そうは思っていても、もどかしい、やりきれないと思うのもやはり仕方がないことだ。
私兵が欲しい。五十鈴を信頼してくれて、五十鈴も信頼出来る私兵と言う名のパートナーが。
『――プロシュートさんって、ギャングなんですよね』
『なんだ、いきなり』
キレイなブルーアイが見開かれる。 唐突な確認に意図がわからず困惑するプロシュートを余所に、五十鈴の頭脳は回転していく。
『結構、強いんですよね』
彼の身体は綺麗に作り込まれている。まだ本調子にはなりきれていないが、柔軟でそれなりに強靭な身体。
『で、スタンド使い』
スタンドと呼ばれるモノを五十鈴は見たことがない。しかしどういうモノか、どういう能力が持ったモノがいるからはある程度聞き――プロシュート自身のスタンドに関してはまだ聞いていない。まだ聞いて教えてもらえるような間柄ではない――理解していた。
彼は身を守る術を持ち、聡明で察しも良く《悪巧み》に強い。加えて情報として知っている《だけ》の五十鈴よりも《悪人》の心理を身に沁みて知っている。
五十鈴は彼を信用し、そして信頼し得る人物であると言う判断を下した自分を信じている。
『一体、なんだってンだ、お嬢ちゃん』
五十鈴が勢い良く立ち上がってソファーに座るプロシュートに詰め寄った。
『私と一緒にお仕事しませんか!』
歓喜と期待を瞳一杯にしてプロシュートの顔を至近距離で見つめた時、丁度見回りを終えた雪明りが幼馴染と赤ん坊を引き連れて帰ってくるのが視界の端に映った。
プロシュート逆トリ6
2014/10/02 00:19 ( 0 )
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