半年前、カントー地方はクチバシティ。

何処までも澄み渡った青空の下、その青を万遍無く反映している大海と繋がる玄関口であるクチバシティ。港湾都市として発展してきたこの街は、国内のみならず国外の船舶も停泊しており、この国最大の港でを有している。その港に停泊している船の殆どは商業戦や輸送船、客船など怪しさとは無縁のものばかりである。だが、停泊している船舶に混じって停船している中型の客船ー全長250m弱、全幅30m弱で雪のように白く塗られた船体に、船首の辺りに施された『QUEEN JULIANA』という金の装飾が目立つ船ーは周囲の人間の目に大層奇怪に映ったことであろう。
通常のこの種のクルーズ客船は、船上プールやヘリポートなどは標準装備として船体に設けられている。だが、この客船に至っては船上プールが何処にも無く、代わりにヘリポートが通常のそれに比べて多く作られている。また、船体上部には、まるで周囲の人間から隠すようにしてパラボラアンテナが幾つも作られていた。また船上の通路やデッキには乗客や乗組員の姿は無く、代わりに銃器で武装した警備員が何人も立っており、船上のあちこちを見回っている。この客船に抱く感想を十人に聞けば、十人とも奇怪なものだと答えるだろう。だが、その十人の中には、もしかしたら奇怪とは異なる答えに辿り着く者もいるかもしれない。

船体脇に設けられたサイドデッキを歩いている二つの人影は、奇しくもその異なる答えを抱く者であった。

「相変わらず物騒な船だな__」

二人の内の一人、190cm近い大柄の身体を黒のスーツで包んだカンザキは、擦れ違う警備員に睨まれながら小言を漏らした。彼らの目付きは街中にいる警備員のそれとは異なり、何の色も見られなかった。誰もが顔はを他所を向いているが、眼球だけは擦れ違うカンザキともう一人の男に向けられており、手にした銃器の安全装置を二人の『目の前』で外していた。それは暗におかしな真似をしたら射殺するという警備員達の意思表示であり、それに気づいているカンザキは不愉快そうに彼らを見ていた。

「__私にはこういった趣向の方が落ち着きますが」

カンザキの隣を歩いていたもう一人の男ー青いショートヘアーに上質の紺色のスーツを着ている全体的に細い男ーはぽつりと漏らすように言った。カンザキと同い年くらいの男の目にはカンザキのそれとは違い、とても落ち着いた色が見受けられた。頭一つ分小さい青髪の男はすぅ、と大きく息を吸い込んだ。彼の鼻腔にはクチバシティの海を漂う潮の香りと、銃器から漂う火薬の臭いが満ち溢れた。前者はともかく、後者は全く銃器を触ったことの無い人間には恐怖の象徴であろう。いや、例え扱いに慣れた人間でも、それの口を向けられたら問答無用で抵抗するだろう。銃器とは、それほどの恐怖の象徴であり、青髪の男はこれが落ち着くと言っている事から、堅気では無いことが伺えた。

それもその筈だ。カンザキの隣を歩いている男はかつてこの国を恐怖のどん底に叩き落とした秘密結社、ロケット団の嘗ての幹部で、その残党をまとめあげてる現在の最高幹部であるからだ。その名はアポロ。合衆国が嘗て行なったプロジェクトー月面への有人飛行ーを成し遂げた偉大な宇宙船の名を冠する青年だ。狐のように鋭い目は周囲の警備員達を忙しなく観察しており、彼らの装備や体格や配置を把握しておくことで、いざという時には自慢の相棒ー鉄をも溶かす焔を放つ黒き狗ーの力を借りて脱出できるようにしている。その相棒ことヘルガーの入った赤と白の配色のボールを握り締めたアポロは、警戒している自身とは裏腹に飄々とした雰囲気のカンザキを横目で見た。アポロと違い、カンザキは擦れ違う警備員達に苦笑はすれど、その装備や配置を確認しない。それは例え危機的状況でもこの船から逃げ出せるという余裕の表れか、はたまた何も考えていないだけか。それははっきりとはしないが、『あの』カンザキがその程度の失敗をするとも思えず、アポロにはそれは前者に思えた。

「ようこそ、クイーン・ユリアナへ」

サイドデッキの通路の先にある、シンプルだが決して他の物に見劣りしない模様が刻み込まれている観音開きのドアの前に立っている男がカンザキとアポロに言った。淡い紫色の長髪を後ろで束ねた男は、深々と二人に礼をすると、手にした小さな四角い紙を差し出した。それを受け取ったカンザキとアポロは、男が顔をあげる前にその紙、いや男の身分を表す名刺を見た。

「投資銀行『グローバルホーク』副頭取、ダンテ・アリギエーリ・・・・」

名刺に書かれている男の名前と役職をアポロはゆっくりと音読した。それに男、ダンテは小さくお辞儀をすると、二人に背中を向けてドアに手をかけた。

「あなたは、哲学者のつもりですか?」

その背中に、アポロは問い掛けた。彼の言葉を聞いたダンテは一瞬動きを止めると、二人に背中を向けたまま首を左右に振った。その動きを胡散臭そうな表情でアポロは見届けると、名刺を胸のポケットにしまい、開け放たれたドアの向こうにある通路へと消えていく背中を追いかけるために再び歩きだした。カンザキもまたダンテの名刺をなおすと、先に行くアポロを追いかけてるために歩きだした。
ドアの向こうの通路は、板張りのサイドデッキとは異なり、真っ赤なレッドカーペットがオークの上に轢かれており、まるで王宮にいる気分になれる。通路の壁には観音開きのドアとはまた違った彫刻が施されており、それだけでこの場をより上品なものへと仕立て上げている。しかし、そこを歩くアポロは無表情のままダンテを睨んでおり、カンザキは何かを考えているのか黙ったままである。

「・・・我が門に入らずんば汝一切の望みを捨てよ」

ダンテの脚ぬ動きが唐突に止まった。彼の背中を見つめていたカンザキの漏らした言葉が、何か気に障ったのか、ダンテ肩越しに彼を睨むと再び歩きだした。だが、それはアポロとカンザキに疑念を抱かせるには十分過ぎる根拠となり、辺りに重たい空気が漂う。せっかくの上品な空間が、そこに全く相応しくない空気のせいで台無しである。しかし、カンザキやアポロ、それにダンテはそれを互いに指摘することが馬鹿らしく感じられた。

「君は初めて見る顔だな」

その重たい空気を壊したのはカンザキであった。彼の言葉は眼前を歩いているダンテに当てたものだが、それにダンテは何の反応も示さない。それはアポロも同様らしく、カンザキの言葉を聞き流しながらダンテの反応を観察していた。

「確か三か月前にコバルトに会ったとき、グローバルホークの副頭取はそれなの年の御婦人だった筈だ。あの時の彼女は末期のガンでそう長くないと聞いていたが・・・」

コバルト。

その言葉をカンザキが発した瞬間、アポロは微かに反応を示した。それはとても、とても小さなもので、カンザキとダンテはそれに気づいていなかた。そして、そのカンザキは探るような眼差しでダンテを見ると、徐に口を開いた。

「これでもコバルトの周りやグローバルホークの重役は把握していたつもりだが、私は君を知らない。なのに私の知らない青年がたったの三ヶ月で副頭取になったのか?」

「____頭取、コバルトが待っています」

今すぐ答えろ、カンザキの言葉は暗にそう言っていた。しかしダンテはその含意に気づいていたが、敢えてそれを無視して、通路の途中にあるドアに手をかけた。そこは普通のドアとは違い、見るからに丈夫そうな造りになっている。その左右にも武装した警備員が立っており、腰のホルダーに入っている拳銃に手を伸ばしながらカンザキとアポロを見ていた。そのメッセージを汲み取ったカンザキは、一旦ダンテを言及するのを止めて彼が開けるドアを見ていた。ゆっくりと開くそれは通路に立っている二人を室内へと誘う。

「いらっしゃい____」

開かれたドアの向こうから、女性の声がした。そこは雑居ビルの一室程の広さの部屋で、左右の壁には本棚やキャビネット、幾つかの飾られた絵画がある。そして、入口から見て正面に大きなマホガニーの机が置かれており、それにもたれ掛かるようにして一人の女性が立っていた。細身の身体を男性物のストライプ柄のビジネススーツで覆い、セミロングの銀髪の女性はカンザキとアポロの顔を見てにやりと笑った。

「久しぶりだな、コバルト」

アポロやカンザキより幾らか若い銀髪の女性、コバルトはカンザキの挨拶に手で返すと、応対用の革張りのソファーを指さしてカンザキとアポロの二人に座るように言った。だがカンザキとアポロはそれに従わず、アポロはゆっくりとコバルトに歩み寄り、彼女の手を取った。

「____初めまして、ミスコバルト。私はアポロ、ロケット団最高幹部です」

「初めまして、ミスターアポロ。私はコバルト、カンザキのパトロンです。どうぞ寛いでください」

コバルトブルーに輝く彼女の大きな瞳に、アポロの真剣そうな顔が映り込んだ。アポロはそっとコバルトの右手を握ると、先にソファーに座っているカンザキの横に腰掛けた。それに続いてコバルトも座り、彼女の傍にはダンテが立っていた。彼は手を背中で組むと、カンザキとアポロに彼の腰のホルスターに入っている拳銃を『敢えて』見せつけて、二人に警告していた。

「ロケット団のご活躍の話は聞いています。何でも一度は東の島国の経済を抑えたとか・・・」

「それは数年前の話です。まさかたった一人の子供に負けるとは・・・」

コバルトの言った事はアポロにとって苦い思い出であるらしく、その当時の光景を思い出したのか、アポロは舌打ちをすると握った手に力を込めた。それはコバルトも同じらしく、美しい彼女の目が細められ、それは獲物を狙う猛禽類のようである。

「ヤマブキシティのシルフカンパニーの一件ですね。私もシルフ株の変動見越して売買したので、およそ500万$の損失を出しました」

あれは屈辱ですよ、とコバルトは口から漏らすと、傍に立っているダンテに手で合図を出した。それを見たダンテは、部屋の一角にある冷蔵庫を開けると、そこから幾つかの瓶やボトルを取り出して、それを応対用の机の上に置いた。コバルトはその内お一本、未開封のオレンジジュースのボトルに手を伸ばした。

「それは我々も同じ気持ちです、あのシルフの一件がロケット団崩壊の始まりでした」

「全く、あのトレーナーを恨みたいですが、相手はまだ子供でしたしね」

ボトルの蓋を開け、ダンテの持ってきた赤いカットグラスにオレンジジュースを注ぐと、コバルトは一気にそれを飲み干した。苛立ちからくる喉の乾きがこれで潤えたとは到底思えないが、それでも口にしないよりは多少はマシである。これはアポロも同じであるらしく、机上のアイスコーヒーの入ったボトルを開けると、その中身を緑のカットグラスに注いで一気に傾けた。

「まぁ、おかげでロケット団は解散して、ジョウト地方のラジオ塔の作戦も成功しました」

ラジオ塔の作戦。

それは少し前に解散に追い込まれたロケット団の残党が主要メディアの一つであるジョウト地方のコガネシティにあるラジオ塔を占拠した事件だ。その表向きの目的は、行方不明になった嘗ての指導者に自分たちの思いを伝えるためとなっている。しかし、これはアポロの立てた作戦であり、その真の目的は『ロケット団の残党が再び敗残して、今度こそ解散する』というものだ。これにより大衆はロケット団は完全に潰えたと思っていた。しかし、表向きロケット団を解散させる事で。アポロはその団員や関係者を司法の手から守ってみせたのだ。今も数人の団員は警察に指名手配されているが、当の警察もロケット団は解散したものと考えており、そこまで本気になって事件を捜査していない。そうやって地下に潜んだ元ロケット団の面々は、アポロの設立したダミーカンパニーの従業員として日々の生活を営んでいる。

しかし、これではまだ安全とは言えない。

本気で捜査していないとはいえ、未だに警察の中にロケット団残党を捕まえる捜査本部や捜査官は残っている。それらを完璧に解散させなければ、安全ではない。そこでカンザキの出番だ。ロケット団は数年前にある子供に敗れる前から、長年国連のダーティーワークをこなしてきた。それは国連にとって邪魔な人間の暗殺や政治的な裏工作、そして大衆の反テロ意識を高めるために、テロリストの仕業に見せかけた爆弾テロなどを行なってきた。つまり、ロケット団が警察に捕まることは、国連の長年のスキャンダルが明るみになるのと同然である。そのためにカンザキは警察に捜査を辞めるように圧力をかけ、警察の捜査網を完全に破壊したのである。ここまで見越してラジオ等の作戦を実行したアポロの手腕は、まさに恐るべきものである。

「___恨み言は済んだか?」

互いに共通する恨み言を零していたアポロとコバルトに、カンザキはミネラルウォーターを飲みながら言った。それは暗に話をさせろと言っており、アポロとコバルトは一旦落ち着くために再びグラスを傾けた。そして両者が頷いたのを確認すると、カンザキはアポロの顔を見た。

「実は私達三人、誰も損をしない儲け話があるが、興味はないか?」

「儲け話?ろくでもないのはお断りですよ」

カンザキの話に、アポロは鼻で笑うと二人の顔を見た。

「悪くはない筈だ。ロケット団の___業界での地位をあげたくないか?」

だがカンザキはそんなアポロを言葉を鼻で笑うと、怪訝そうに自身を見てくるアポロを見た。それにコバルトも興味があるらしく彼女もまた指を組むとカンザキが続けるのを待っていた。カンザキはまるで焦らすように二人とダンテを見ると、ソファーに浅く座り直した。

「二人とも朝霧海奈を知っているな」

「__史上最年少の現国際連合事務総長、出身は不明、妻にWHO主任研究員の朝霧皐月がいる。身長は185cm、年齢は31歳、銀色の長髪に蒼い瞳、容姿は『あなたと違って』非常に恵まれており、おそらく白人と東洋人のハーフと思われる___」

「・・・・お前は海奈のストーカーか?」

カンザキの問いかけに、刺のある言葉で答えたのはダンテであった。彼はまるで台本を暗記していたかのように海奈に関する情報をスラスラと発する。あまりに正確で不気味なそれに、カンザキは若干顔を強ばらせながら彼を見ていた。だがダンテはそんなカンザキなど興味が無いと言わんばかしに無視すると、一呼吸於いて口を開いた。

「____そして、朝霧事務総長は伝説のポケモン、ルギアの擬人である」

「その通りだ。そして海奈に娘がいることは知っていたか?」

補足を付け加えたダンテに応えたカンザキの言葉により、三人の動きが止まった。いや、初めて知る事実を耳にして、動けなかったという方が正しいだろう。現にコバルトはサファイアのように美しい瞳を思いっ切り見開き、アポロはぎこちない動きで横に座っているカンザキを見た。そして、ダンテは僅かにカンザキを睨むと、すぐにコバルトの空いたグラスにオレンジジュースを注いだ。

「・・・娘、私は知らないぞ」

「同じく、我々ロケット団も長年国連の下で動いていますが、彼に子供はいないと聞いていました」

「そうだろうな。娘、雫さんは海奈の政敵やテロリストから守るために『別の』場所で育てられていたからな」

ミネラルウォーターを飲みながらカンザキは言った。至極冷静な彼だが、残りの三人は目でわかる程、動揺している。それは仕方のないことだ。何故なら、今の朝霧海奈は国連の最高権力者だからだ。詰まりは、世界最大にして最強の組織を牛耳る事を意味している。その政治的、軍事的権力は合衆国の大統領に匹敵しており、様々な権力を有している。それは彼の一言で世界経済が傾き、彼の意思で世界中に平和維持という名目で平和維持軍、いや実質は事務総長や幹部の私兵に等しい国連軍を送ることができる。延いては、海奈は大海の、いや世界の指導者とも言える男である。その海奈に娘がいるということは、世界中の関係者にとてつもない影響を与える。仮に娘が成長して、結婚適齢期になった頃には、経済界から政界まで、様々な政略結婚の話が舞い込む筈だ。何せカンザキのような補佐官を除けば、その婿養子は一番海奈に近い人間になれる。それは次期事務総長の椅子はもちろん、思いのままに世界を動かせる力を手に入れられる。仮に海奈がその職を辞していたとしても、公の場でのオブザーバーとしての発言力は侮れない。そこまでは容易く想像ができ、後は言わずと知れたことだ。

室内を沈黙が支配し、コバルトとアポロは額を伝う冷や汗を自覚した。しかし、カンザキは涼しい顔のままミネラルウォーターの入ったグラスを傾けると、乾いた喉を潤していた。

「___たぶん海奈の性格を考えると、雫さんの存在は公にしないで、静かに自由に育てるつもりだろう。だが周りの人間は違う」

「・・・・その雫という娘を利用するんだな」

重苦しい雰囲気のまま、コバルトは搾り出すように言った。それにカンザキは冷笑のまま僅かに頷くと、硝子玉のように色の無い瞳をアポロとコバルトの二人に向けた。そこには感情の色が一切無く、まるで自身の意思の無いマリオネットのようである。

「今から半年後に私が雫さんを迎えにく。その後は一旦、私の恩師のナナカマド博士の所に行き、適当に口実を付けて彼女に旅をさせる」

「そこを我々ロケット団が拉致するんですね」

そこまで聞いてカンザキの言いたいことを理解したのか、アポロは微かに頬をあげながら言った。だがカンザキは首を左右に振ってみせた。

「拉致するのは正解だが、それはイルクーツク・カンパニーの連中にやらせる」

「イルクーツク・・・・!?」

「あの業界トップの!?」

カンザキの言葉を聞いた瞬間、アポロとコバルトは揃って腰をあげた。それに驚いたのか、ダンテはびくりと肩を揺らした。そんな三人とは正反対に、カンザキは涼しい表情のままグラスに残っていたミネラルウォーターを飲み干した。

イルクーツク・カンパニー。

その創業は18世紀末とも云われている老舗の巨大企業だ。その頃は石炭を使った蒸気機関がヨーロッパで開発された時期であり、ちょうど石炭の需要が伸びていた時代だ。今でこそ石油や天然ガスなどのエネルギー革命により石炭はその椅子を譲ったが、当時は世界中の主なエネルギー源を石炭が担っていた。その石炭を発掘するための炭鉱事業で成功したのがイルクーツク・カンパニーの前身であるバイカル・コーポレーションだ。当時は単にバイカル社と名乗っており、規模も現在のイルクーツク・カンパニーの比ではなかった。しかし、そのバイカル社の創業者一族が炭鉱事業で成功したのをきっかけに、同社は飛躍的な成長を遂げ、創業から半世紀程は石炭を中心とした資源開発の事業を展開していた。そして1929年10月24日、バイカル社の名が世界中に届く事件が起きた。

暗黒の木曜日と呼ばれるその日、合衆国の証券取引所で株価が大暴落した。

世界恐慌だ。

この大暴落の影響は瞬く間に世界中に広がり、大小問わず様々な企業が倒産した。人々は職を失い、生活の糧を無くした。合衆国やヨーロッパの大国はその国力に物を言わせて、何とかこの危機を乗り切ったが、他国は違った。そして、バイカル社は前者であった。当時のCFOの天才的なその手腕により世界恐慌を乗り切ったバイカル社は、これを機に投資の分野にも広く手を伸ばした。大多数の企業が倒産する中、バイカル社はほぼ無傷でこれを乗り切った。その前に見舞われた大規模な世界大戦で企業価値を高めていたバイカル社は、これをきっかけに投資と資源開発の全く異なる業界で力を付け出した。

この時点で、バイカル社は既に経済の『怪物』と化していた。

そしてこれを機にバイカル・コーポレーションと名を変えた同社は、既に世界経済の一割を支配する規模に成長していた。
世界大戦後、疲弊した国を相手に生活物資の貿易で利益を得ていたバイカル・コーポレーションは本格的に製薬の分野にも手を出した。バイカル・コーポレーションはこれでも成功して、その後十数年間成長を続けた。

1973年9月1日、バイカル・コーポレーションは資源開発に投資、製薬の三つの部門を一つにした新たな怪物、いやヒュドラを生み出した。それがイルクーツク・カンパニーであり、資源開発と投資、製薬という主要の三つの頭の他にに海運、軍事、工業、食品、化学、宇宙開発という六つの頭を携えたヒュドラである。
奇しくもイルクーツク・カンパニーが創設された一ヶ月後には第四次中東戦争による石油危機が始まった。これも資源開発と投資の分野で耐えきったイルクーツク・カンパニーは世界経済の四割を支配する大企業へと成長していた。世界中の先進国の六割の家庭には同社の製品があり、五割の企業は何らかの形で同社に関わりがある。

それほどの影響力を持ち、国連とは別に世界を動かせる力を持つ企業をカンザキは狙っていた。

「最近の合衆国のリーマンショックやサブプライムローン問題、ギリシャの信用破綻でのEUの共倒れに、北アフリカ諸国のクーデターによるホルムズ海峡封鎖での石油価格の暴騰。例えヒュドラでも、これだけの事が連続で起きればタダでは済まない」

「____他分野に事業展開しているヒュドラだからこそ、他分野の影響を受けやすい」

カンザキの言葉を補うようにして、コバルトは言った。それにカンザキは首肯すると、固まっているダンテとアポロを見ながら言った。

「そこでイルクーツクの投資と製薬部門を利用する予定だ。コバルト、あれを出してくれ」

そう言われたコバルトは、焦点の合わない目でダンテに手を振った。彼はそれに頷くと、部屋の壁にかけてある一枚の絵に手をかけた。その絵を額ごと壁から外すと、その裏に隠されている金庫を持っていた鍵で開けたダンテは、見るからに厳重そうなジュラルミンケースを金庫から引き摺り出した。それなりの重量であろう、ダンテはその持ち手を両手で掴んで運ぶと、それをコバルトの脇に置いた。ジュラルミンケースの持ち手の近くには赤色のランプ電子ロックのためのナンバーパッドが付いており、コバルトはそれに幾つかの数字を打ち込むと、その隣にある小さな画面に人差し指を押し当てた。画面の下に埋め込まれているセンサーが彼女の指紋と暗証番号を認証して、赤色のランプが緑色に変わった。それからコバルトはケースを開けると、内側の緩衝材で包まれた3本の強化ガラスで作られた、太い試験官のようなものを取り出した。上下を銀色に輝く金属で覆われており、強化ガラスの内側には二重螺旋のようなデザインの透明の筒があり、それには何かが入っている。コバルトは赤色、蒼色、緑色のそれらを机上に置くと、カンザキは彼女らに「ありがとう」と短く言った。

「これは十年前にに皐月さんが研究していた生物兵器のウイルスとそのワクチン、そして模造品だ」

「模造品?」

赤色の試験官はウイルス、蒼色はワクチン、緑色はウイルスの模造品と説明したカンザキは、不思議そうな顔でそれらを見ているアポロの顔を見た。どうやらカンザキの狙いをいまいち把握できていないようで、彼は早く本題に入るように目で彼を促していた。

「____この模造品はとても良くできている。遺伝子データ、発症パターン、感染ルート、どれをとってもリムファクシと何ら変わらない。そこでだ、この『模造品』をイルクーツクに秘密裏に渡すんだ」

そこまで言ったカンザキは、アポロとコバルトが頷くのを見ると、説明を続けた。その近くでは、ダンテが金庫から新たに小さなジュラルミンケースを幾つか持ってきた。それらは大きさこそ最初のケースに劣るが、見たところ大きいケースに負けないくらい頑丈そうである。

「リムファクシと違い、模造品のウイルスに感染力はあっても殺傷能力は皆無だ。これをイルクーツクにリムファクシと思わせて渡す。ただし、シンファクシは渡さないが」

「____なるほど、投資と製薬か。確かにイルクーツクはうってつけだな」

どうやら話の顛末を理解したらしく、コバルトは薄く妖艶な笑みを浮かべると、カンザキと顔を見合わせて笑っていた。互いに楽しそうに笑うカンザキとコバルトを、アポロは不振そうに見ていたが、やがて彼が何を言いたいのか察すると、彼もまた愉快そうに笑い出した。

「話が読めました。で、我々も役割は?」

「アポロは裏工作とワクチンの精製を頼む。このワクチン・・・シンファクシは皐月さんが研究を中断したからまだ未完成だ」

カンザキはそう言うと、シンファクシの入った試験官をダンテの持ってきた小さなジュラルミンケースの中にしまった。緩衝材の敷かれたケースの中に入れられたそれは鈍く輝いており、カンザキはそれをアポロの前に置いた。彼の意図を察しているアポロは、ケースを閉じると大きいものと同様に付いているナンバープレートに暗証番号を入力した。そして、小さな画面に人差し指を当てて自身の指紋をシステムに認証させると、ランプが緑色から赤色に変わったのをアポロは満足そうに見ていた。そして彼は立ち上がると、二人に浅く礼をして部屋を後にした。

「そしてコバルトは必要な資金とイルクーツク株の管理を頼む。売却のタイミングはお前が最適と思う段階で大丈夫だ」

「____ダンテ」

コバルトはカンザキの言葉に頷くと、先ほどから傍に控えているダンテの名を呼んだ。彼はそれに頷くと、すぐに室内に置かれている端末の前に向かうと、それを動かした。機械が動く低い駆動音が鳴り響き、端末の画面にはいくつもの数字が流れていく。それらはダンテの紫色の瞳に映っており、彼の瞳孔は忙しなく動いている。

「私は事態の調整と情報操作に務めるから、そっちは任せたぞ」

まるでロボットのように素早く指を動かしているダンテを見ていたコバルトは、カンザキの言葉に軽く頷いた。それを不審そうに見ていたカンザキだが、用が全て済んだらしく、残る二本の試験官を移した二つのジュラルミンケースを持って部屋を出ていった。彼が開けた観音開きの扉はゆっくりと音をたてながら閉まり、後にはコバルトとダンテの姿のみがあった。

「・・・・パンドラはどれくらい完成しているんだ?」

空になった赤いカットグラスにオレンジジュースを注いだコバルトは、端末を操作しているダンテに問いた。それにダンテは手の動きを止めると、暫しの間考え込むようにして黙っていた。そんな彼を横目に見ながら、コバルトはグラスを傾けて、口内を爽やかな柑橘類の汁で潤していた。十数秒後、考えが纏まったのか、ダンテは再び指を動かし始めると、コバルトの方を見ずに口を開いた。

「現状で9割ほど完成しています。おそらく、後半年もあれば一応は完成します」

「___試験運用もそれからか」

勝者の宴とはこのようなものなのか。

コバルトは、まるで陶酔しきったような相貌を浮かべ、ひたすら追い求めていたものが手の届く範囲にあることを確信した。それは勝利を確信した人間のものであり、コバルトは口角を持ち上げながらオレンジジュースで満たされたカットグラスを見た。そこには本来の整った顔を歪め、醜悪で恍惚な策士のような顔ばせのコバルトがいた。

コバルトは知っていた。

既にカンザキとアポロの二人、いや国連とロケット団が自身の術中に填っていることを。今のコバルトは投資銀行の頭取であり、カンザキのような権力もアポロのような組織力も持っていない非力な一個人だ。財力はあっても、それは国連のそれに到底勝てる筈も無く、かと言ってロケット団を凌ぐ程の力も無い。そんなコバルトが勝利を確信できるほどの代物、パンドラ。既にその全体の9割は完成しているので、コバルトがその気になれば国連やロケット団を滅ぼすことはもちろん、戦争をも引き起こせる悪魔の力であることを。

(だが、まだ実行しない・・・)

今はタイミングが悪い、そう考えたコバルトはダンテに見られないように密かに笑っていた。最も、そのダンテは端末の操作で忙しく、それどころではなかったが。



「出してください」

クイーン・ユリアナが接岸している区画に停めてあった青のスカイラインの後部座席に座ったアポロは、ストライプ柄のネクタイを外しながら運転席に座っている男性ー明るい緑色のボリュームのある髪に、黒いベレー帽のようなものを被っている二十代半ばの青年ーに言った。青年、いやロケット団実働部隊幹部のランスは、アポロの言葉を耳にしてハンドブレーキを外し、ギアをPからDに入れた。それにより車体は軽く揺れ、座っているアポロは危うくバランスを崩しかけた。そんなアポロをルームミラー越しに見たランスは、そのイケメンと呼べる顔に嘲笑を貼り付け、まるでアポロを挑発するような目付きであった。

「豪華客船の旅はどうでしたか」

それはクイーン・ユリアナに半日も滞在していないアポロに対する皮肉のつもりであろうが、実は全く皮肉になっていないことにランスは気づいていない。アポロもそれを言及することは馬鹿らしく感じられ、取り敢えずランスの問いに答えることにした。

「別に船旅というわけではありませんよ、あのクイーン・ユリアナはグローバル・ホークの本社のようです」

「___船が本社?変わった連中ですね」

それがポケモンマフィアという奇妙な集団の幹部が言うことか。

若干ランスの発言に違和感を覚えながらも、アポロは流れゆく外の景色に目を向けた。既にクイーン・ユリアナは遥か後方に見えており、その中にいるであろうコバルトの事を考えていた。今回、彼女とはカンザキの仲介による初めての顔合わせであった。
前もってカンザキから聞いた話によると、コバルトは国連非公認の、或いは国連を一切介さない場合の仕事における、カンザキのパトロンであるらしい。その投資家としての実力は計り知れず、かつて合衆国での9・11同時多発テロの影響による航空会社の株の暴落や同国によるイラク侵攻による原油価格の変動、ヨーロッパにおける爆弾テロやギリシャの財政不安、そしてアラブ諸国や北アフリカにおける民主化運動におけるホルムズ海峡の封鎖。数々の歴史的なテロや事件を予測していたかのように株を売買して、その資産を増やしてきた天才的な人間である。
そして彼女が乗艦しているクイーン・ユリアナもその証だ。一箇所に留まらず、常に世界中を航海することでいち早く情報を入手して、現地の状況を把握できる。そのために船体には情報集のための似つかわしい無骨なパラボラアンテナが幾つも付いているのだ。

(まるでテロや事件が起きるのを知っていたかのように・・・・)

一つや二つの出来事なら、その分野に精通している人間なら予想は出来るかもしれない。だがコバルトはそれらを初めから知っているかのように株を売買している。初対面のアポロでも十分に違和感を覚えるほどだ。コバルトの存在に、IMFや国際警察が感づかない筈が無い。だが現実はコバルトは国連や関連期間に一切認知されていない。

(・・・あのタヌキめ)

タヌキ、いやむしろゴリラといった表現がよく似合う男の顔が、アポロの脳裏で笑っていた。職業柄、何かと秘密の多い彼ら国連の裏仕事をこなしてきたロケット団と、事務総長の筆頭補佐官であるカンザキは縁が深い。そんな彼がまさか自分たち以外にコバルトという経済の化け物と手を組んでいたとは。

(なかなか侮れませんね____)

指の先を噛みながら、アポロは頭の中で笑い続けているカンザキを忌々しく感じていた。国連とロケット団ではその力に違いが有りすぎる。だからと言ってカンザキはアポロ達に無茶苦茶な命令を出したり、報酬を減らしたりはしない。何より互いの利益を考慮して裏切らない男である。だからこそアポロ達は国連の下についていた。だが、その信頼(少し不適切な表現である)していたカンザキがコバルトという懐刀を持っていた。

(いったいどれだけのコネクションを持っているんだ・・・?)

だがそれをここで考えたところで、何か状況が変わるとは思えず、アポロは胸中にむず痒さを覚えながらも、これから起きるであろう大騒ぎに備えて仲間たちに事態を説明することにした。とはいえ、それはアジトに着いてからの話だ。それまでアポロは胸中にこのむず痒さを覚えていなければならなかった。



アポロがクイーン・ユリアナを離れて数分後。

サイドデッキと繋がるタラップをゆっくりとした歩調で降りてきたカンザキは、その場で頭上に広がる青空を見上げて、自然と漏れる溜息を自覚した。青空は水平線の彼方まで広がっており、それはまるで罪人をも許す広い主の懐のようである。だが、それはカンザキにとってはただの嫌味でしかなく、自身が建てた計画に対する罪悪感しか感じられなかった。

今回の計画の要は、いかに国連や警察に『朝霧雫はテロリストに誘拐された』と自然に思わせるかだ。それには最高権力者である海奈の協力が必要そうだが、実の娘を利用することにかれは十中八九反対するだろう。それに、この事を海奈が知っていたとして、『自然に』事が運べるかの保障はないからだ。ならば、最初から彼には知らせずに、自身の裁量で実行する事がベストである。

(とはいえ、最低だよなぁ)

この計画をカンザキがたてた目的は、朝霧一家を守るためである。なのに夫婦の大切な一人娘を利用することに、流石のカンザキも罪の意識を感じていた。

「何シケた面をしてんのよ」

タラップの先から女性の声がした。それで意識を現実へと戻したカンザキがそちらを見ると、そこには女性物のビジネススーツとコートを着崩した、黒髪に赤いメッシュの入った女性が腰に手を当てて立っていた。女性はまるで獣のように鋭い目でカンザキを睨むと、早く降りてこいと親指で示していた。カンザキはそれに呆れた表情を浮かべると、そのままタラップを早足で駆け下りた。

「たく・・・ただでさえ時間が無いのに__」

「___悪いな、椿」

女性、椿はカンザキの言葉に外方を向くと、そのまま歩きだした。カンザキはその細い背中を視界に捉えて歩きだし、少し先を行く彼女に追いつくために速度を速めた。だが椿はカンザキの事が嫌いらしく、彼が横に並ぼうとするたびに速度を変えて、それを決して許さなかった。それがとても可笑しく感じたカンザキは、先ほどまで感じていた罪の意識が少し薄まるのを覚えた。

「それで、コバルト達との話し合いは終わったわけ?」

「あぁ、予定通りに作戦は半年後に実行するよ」

クイーン・ユリアナの中にいた時は気がつかなかったが、秋が深まってきた今頃の風はとても肌寒く、カンザキは身震いをした。肌を突き刺すような風が容赦無く二人の身体にぶつかり、それは彼らに一刻も早く暖かな楽園へと脚を踏み入れたい衝動に駆らせた。

二人の間には、沈黙の空気が寒さとは別に漂っていた。だが、それを壊したのは、他ならぬ椿であった。

「半年か・・・」

ぽつりと呟いた椿は、寒そうに手をコートのポケットに突っ込んでいた。ブルりと身震いして、鼻腔をつく冷たい空気に嫌そうな顔を知ながらも、気配でカンザキが聞いていることを察して口を動かした。

「あんたに拾われて、もう半年が過ぎたわね」

「____そっか、お前とはもう半年の付き合いか」

椿の言葉でカンザキもそれを思い出したらしく、脚の動きを緩めた。椿もそれに合わせて動きを緩め(だが決してカンザキの横にはこない)、彼と話ができる距離をキープしていた。

「・・・この半年でわかったことだけど、あんたは上司としては最低の人間ね」

今すぐあんたの喉笛を噛み切っってやりたいわ、と椿は唐突に毒づくと、微妙な笑みで聞いているカンザキを嫌そうな目で見ていた。

「お前が言ったら本当に喉笛を切られそうだよ」

「あんたが苦しんで死ぬなら今すぐやってやるよ」

椿の辛辣な言葉あ容赦無くカンザキに突き刺さっていく。だが、それはタラップで感じていた罪悪感を薄れさせるものであり、正直な話、カンザキは救われた気分でいた。そして彼がそうなることを知っていて毒づく椿の行動は。彼女なりの優しさの表れか。

「・・・クイーン・ユリアナの語源を知っているか?」

ふとカンザキが口を開いた。それに椿は首を左右に振ると、本題に移るように顎で示した。

「もともとユリアナ女王はオランダの王族で、大戦時にナチの侵攻から逃れるために亡命したそうだ。戦後、祖国に戻った女王は、荒れた国土に再び繁栄をもたらした・・・」

「____繁栄、ねぇ・・・」

カンザキの言葉に椿は下らないと一蹴すると、海上を飛んでいるカモメの群れをお見た。自由気ままに飛んでいる彼らを羨むような目で見ていた椿は、すぐ近くを歩いている、自身の自由を奪った男を盗み見た。彼は歩きながら後方に流れていくクイーン・ユリアナを見ており、その目に込められた感情は椿からは見えなかった。

「____コバルトは、この世に繁栄をもたらすつもりなのかもしれないな」

「____繁栄をもたらすとか言うけど、結局はエゴでしょう。自分に利益があるから繁栄を目指す、ホント人間って生き物は薄汚いわね」

椿の言葉からは、彼女が人間という存在そのものを毛嫌いしていることがわかる。それはカンザキも重々承知であるらしく、笑いながら頷くと椿に追いつくために足を速めた。だが彼女はやはりカンザキと並ぶ事が気に食わないらしく、彼と距離をおいて歩いていた。

「さっきの続きだけど・・・」

「何だ」

「・・・あんたは上司としては最低だけど、友達としては・・・まぁまぁかもね」

鳩が豆鉄砲を喰らうとよく言うが、今のカンザキの表情はまさしくそれであった。足を止め、目を真ん丸と見開いた彼は恥ずかしそうに外方を向いている椿を眺め、今の彼女が頬を真っ赤に染めていることを容易く想像できた。一方の椿は赤くなった頬をカンザキに見られないように顔を彼から逸らしていた。しかし、そのカンザキ本人は椿が柄にもないことを口にして、照れていることとっくに見抜いているために、口角を微かに持ち上げていた。

潮風が二人の間を吹き抜け、それは青空の中に消えていった。




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -