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序章−3


 声に、少し気合いを織り交ぜて発した。自分にも言い聞かせたかったのだろう。その表情は再び凛としていた。
 ラウエルにとって、帝都の外に出て、何日かの滞在というのは初めての事であった。兄が即位してからは城の中での仕事は手伝うこともあったが、それもあくまで『手伝い』程度の事だった。そう、思うと体中に緊張が走った。今回は、特に大きな任務ではないのだが、兄の片腕として、政治に関われた事を喜ばしくも思っていた。その分、自らの期待と重圧もかかっていた。
 そして、馬がそれぞれ声を上げ、馬車が静かに止まった。
「着きましたよ。アウアリド神殿です」
 どことなく軽々しい印象の御者の声で、チェリエがまず馬車から降りた。周囲をよく確認し、ラウエルを降ろす。次にアルジェが背後を守る様に降りてきた。右手には、ラウエルの身の丈を越すほどの、細身の斧が握られていた。よく見れば、チェリエの腰にも突剣が携えられている。
 御者の男も、彼女らと同じく軍服を身に纏っていた。短髪に長身で体格が良く、これまた心強い。彼――バルタサルもまた、ゼオシフォンの兵士である。
「バルタサル、ありがとう」
 ラウエルはこの二日、ほとんど寝ずに馬車を走らせていた。馬を休めるための休息でも、宿をとったのにもかかわらず寝ずの番で、十分すぎるくらい任務を果たしていた。
「そんなお言葉、もったいないですよ」
 威圧感ある、長身に似合わず、どこか朗らかな彼の声は、その誠実さから来るのかもしれない。
 アルジェとチェリエも、どこか安堵した表情で二人を見ていたが、ラウエルはその事には気付きはしなかった。
 ただ、神殿の方から吹く風に、アルジェの暗く褪せた金色の髪がなびいた。

   *

 四人は法衣を纏った男の案内で神殿の内部を案内されていた。内部の作りは単純だったが、壁、床、天井に至るまで凝った装飾が施されている。それはやはり宗教的な色を見せていた。
 あまり雰囲気の良い場所では無く、ラウエルだけはどこか涼しい顔をしていたが、バルタサルなんか少しばかり弱気な表情を浮かべていた。後の二人は押し黙っていまひとつ何を考えているのかは読めなかった。ただ五人分の足音が静まり返った廊下に響く。
「昼間なのに随分静かだね」
 ふと、ラウエルが案内の男にそう問いかける。
「祭事の関係でここ数日は皆、出払っております。満月の日には、本殿も開かれますので、是非ご覧になって頂きたい」




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