「おはよう財前」
「はよ」
「今日練習」
「ない」
「うそだ」
「うそ、あった」
「過去形かい」


ヘッドホンのコードを本体に巻きながら「今日は何の日」と聞くもんだから「補修の日」と答えてやった。課題が綺麗に並んでこちらを見ている時点で、私達は夏休みを楽しく過ごせないということで決まりなのである。こんなことになるなら授業ちゃんと出れば良かったな、だなんて今更溜め息をついた。


「ちゅーか、財前こういうの来ないかと思っとった」
「今日は特別や特別」
「コーヒーでも降りそうやな」
「はっ、なめんなボケ」
「サーセン」
「誕生日やし来ただけや」
「はい?」
「俺誕生日」
「うわ…、何も奢らんからな」
「可愛くない女」


彼女のクセに…呟かれた私は財前の向かい側でご当地キティのシャーペンをくるりと回し落とすと、鼻で笑いながらもやる気のない顔がチラリと目に飛び込んでくるもんだから暑さと苛立ちで頭が重たくなった。

やはり、やる気の無い顔であってもあやつにかかればイケメンなのだ。憎たらしいったらありゃしない。まったく、二次方程式なんて大嫌いだ!


「…今日誕生日言うたよな」
「おん」
「アイス買うて来るからコレやっといて」
「は、なんで俺がやらなアカンねん」
「わかったわかった。ぜんざいも買うてくればええんやろ」
「まあ、それならええけど」


あんたどんだけぜんざい好きやの。なんて言おうとしたけどまた毒を吐かれそうだったので止めた。急いでアイスとぜんざい買ってくると、プリントが半分も進んでなくて泣いた。あっでも二次方程式全部終わってるありがたい。


「全部やっといてって言うた」
「言ってない」
「自分のしっかり終わらしてるくせに」
「だってめんどい」
「はぁ…もうええわ、おーきに」


袋をドサリと音を立てて置くと目をまんまるくさせてこちらを見た。自分のアイスの袋を開けて「何?」って呟くと薄ら笑いながら「本当に買ってくるとは思わなかった」と言った。これには流石の私も少々カチンときた。財前の立場で私はどう見られているのか不思議である。


「貸し一つ」
「は?」
「私の誕生日も盛大に祝ってもらわんと」
「ぜんざい2つでか」
「おん」
「はっ、今返したってもええで」
「ちょっとちょっと。何故笑顔…、」


いつもは見せないこの財前の笑顔に恐怖しか覚えない。財前の事だしどうせキス二回で貸し借り無しと言うんでしょ。顔がアップで私の目に映るもんだから、なんだこのイケメンと思いつつ目を瞑った。


「貸し借り無しな」
「アホちゃうん」
「ちゃうわ、天才」
「天才は補修来ないと思いますけど」
「日数足らんだけ」
「はあ、ほーですか」
「他に言うことは?」
「誕生日おめでと」
「ん、おーきに」



これからも好きやで!なんて言ったら先生が扉開けたもんだから、心臓ぶっ飛んだ






財前誕生日おめでとう


企画:mzsh!様
ありがとうございました!