もう4月の終わりに近いというのに今日は冬に戻ったかのように寒くて、すっかり春のぽかぽか陽気に慣れていた私の体感温度はマイナスといっても過言ではない。何が花冷えだ、今さら冬の寒さなんていらないのに。花粉だっていっぱい飛んでるじゃないか。おかげで私の鼻はズルズルのズピズピだ。毎年のことだけど。

「おぉー、ブンちゃん今年も大量じゃのう」
「まぁな」

大きな紙袋を3つ程、隣の机の上に並べる“今日がお誕生日君”。ちらりと横になった袋の中を伺えば可愛くラッピングされたお菓子の山が見えた。なかには超有名洋菓子店の包装紙(大きさ的に見ると中学生が他人に買うには高い5000円以上はするであろうもの)が入っているのも見受けられる。彼と同じ誕生日である私には小さなビニル袋にすっぽりと収まる雑貨が4点止まりで収納されている。量より気持ちが大事だ!とは言うけれど、愛がふんだんに詰まった手作りの品が沢山のブン太の袋の中を見ると少しばかり落ち込む。いや、そんなプレゼントを沢山貰いたいだとかそういう意味じゃないんだけど。

「まひろは今年も負けたのぅ」
「……別に」

ほら、こうやって比べる奴がいるから嫌なんだ。これは去年からのことなのだけど。

「ていうかさ、ブン太と私を比べること自体間違ってるって」
「まひろが丸井を抜いたら面白いきの。あ、これは俺からのプレゼントぜよ」

仁王は言って、赤のリボンが掛けられた小さな箱を渡してくれた。中にあったのは三日月のペンダントトップが付いたシルバーチェーンのネックレス。神秘的な雰囲気があって大人っぽくて、ああ、なんか仁王らしい。ブン太がそれを見て「俺のプレゼントと質が大分違うくね!?」とかなんとか不満を漏らすのを宥める仁王の言葉は「丸井は女子から沢山の愛を貰ってるき」。……それはつまり、あれですか、慰め?憐れみ?細かいことは考えないでおこうか。素直な気持ちに戻してありがとう、と伝えると「来年は彼氏に貰うんじゃぞ」と言う。余計なお世話だ!
そのまま外に出て行った仁王(多分保健室にでもサボりに行くんだろう)を見送ると、今度はじっとりとした視線を隣から感じた。

「何膨れてんのよ」
「何でもねーよ」

さっきまでの嬉しそうな顔はどこへやら、今度はムッスーと頬を膨らますブン太。お菓子の山を目の前にして不機嫌になるブン太は珍しい。たいてい食べ物が身近にあればちょっとやそっとのことじゃへそを曲げないのに、たった何分かの間に彼を不機嫌にさせた原因が分からない。がさごそと鞄の中を漁り出すブン太を首を傾げながら見つめていると、差し出された水玉模様の可愛い袋。

「仁王みたいな洒落たやつじゃねーけどよ」

中を開けると手作りらしきクッキーとチョコケーキ。……そういえばお菓子作りが趣味だとか言ってたっけ。試しにクッキーをかじってみるとへたな街のケーキ屋さんよりもおいしい。さすが、だてに立海一、二を争う甘党なだけある。

「凄いおいしいよ!ありがとう」
「当たり前だろぃ?天才的パティシエなんだからよ」
「ほんと天才だよ、これ」
「お、おぅ」

ならよかったぜ、と漏らすブン太の顔はニカリとした笑顔になっていた。畜生、可愛いなぁ。この笑顔がこのプレゼントの量に比例しているのか。チョコケーキにも手を伸ばしながらブン太みたいなキューティーな笑顔を作ろうか、と考えてみる。みたけれど、元のつくりが違うのかと落ち込む結論に直ぐに行き着いてしまった。嗚呼、無情!女子よりも可愛い男子を創った神様ってヒドい!

「来年は俺がネックレスとかプレゼントしてやっから」
「……へ?」

一人で盛り上がってた私は突然ブン太が何を言い出したのか、と目を瞬きさせて彼を見た。

「……それって憐れみの意ですか?」
「ちげーよ」
「まぁ来年も私にプレゼントをくれる男子はブン太と仁王しかいないと思うもんね」
「それでいいんだって」
「……つまり私には彼氏が出来ない、と」

実際そうなんだろうな、うん。来年も仁王に「彼氏にプレゼント貰うんぜよ」とか言われて、かなうはずのないプレゼントの量を比べられて。……ってこれ来年も同じクラスの前提の話じゃん。なるかなぁ、四年連続。

「じゃなくて……あー、まひろは何かプレゼントくれねーのかよぃ」
「ブン太いっぱい貰うから別にいらないかなぁ、って」

そう言うとブン太はニヤリ、と今度は悪戯な笑みをみせた。そう、いつもジャッカルとか赤也君に見せてるみたいなのを。……何だろう、怖い。

「じゃあこれでいいぜ」

え?と聞き返す間もなく唇に添えられた熱。何事かと瞬きを繰り返して、目の前で再びブン太がニヤリと笑うのを見て漸く事を把握した途端に耳から顔全体にブワァッと熱が広がった。

「ち、ちょ、えぇっ!?」
「返事、くれよ」

ふぃっと顔を窓の方に逸らすブン太の頬は彼の髪色と同じく真っ赤だった。私もきっと、同じ状態なんだろう。ああ、どうしよう。心臓の音が煩くて他の音が何も聞こえない。多分、教室では女子の悲鳴が木霊しているんだろうけど。
何も口に出来ないで、ブン太をただただ見ていたらパチリと目が合う。オーバーだなぁと思っていたけれど口を開くと心臓が出てきそう、なんて心情が今なら分かる。だから私は彼に精一杯のキスを落とした。このドキドキとやたらと煩く鳴り続ける心臓が出て行ってしまわないように。保健室に行ったと思ってた仁王は半笑いのままドアにもたれ掛かって私たちを見ていた。



来年は素敵な彼氏様にネックレスを貰えるのかもしれない。私は何をあげようか。