鳳長太郎×財前光/財前誕/企画「mzsh!」提出 誕生日は嬉しいし、楽しみなんや。 表向きは誕生日なんて、って態度とっとるから周りはそう知らんかもしれんけど。 普段のキャラのこともあるし、なんといっても照れくさい。 せやから素直に言えないだけで。 誕生日は嬉しいし、楽しみなんや、ほんまに。 「どちら様ですかー。セールスならおことわ…」 「久しぶり」 昨日は俺の誕生日にかこつけて行われたパーティーで、中学生にしては遅くまでどんちゃん騒ぎをしていたから頭が痛くてしょうがない。 鈍い痛みを訴える頭を抱えてベッドでごろりと寝返りを打つ。 誕生日当日の今日は部長の温情で部活は休みだった。 ぼーと寝そべっていたが、手元が寂しい事に気づいて枕元かどこかに転がっているであろう携帯を探す。 暫くそうして感覚だけを頼りにベッドをまさぐっていると四角い塊に指先が触れた。 引き寄せるとメールの受信を知らせる緑の光が煩く点滅している。 こじ開けるように親指を挟み手を軽く振って携帯を開けばおびただしい量の未読メール。 一つ一つを開く事はせず、期待と少しの不安を抱きながら差出人名だけを確認していく。 さして時間もかけずにたどり着いた一番古い未読メールは謙也さんからだった。 求めていた名前を見つけることはできず、珍しく高揚していていた気分が冷水を浴びせられたように一気に冷める。 遠距離にいる恋人の誕生日ともなれば電話、とまではいかなくてもメールの一つや二つはしてくれてもいいんじゃないだろうか。 普段はうるさいぐらいに構ってくるくせに大事な時に限って何も言ってこないなんて。 妙に浮かれた自分が馬鹿らしくなる。 気を取り直して誕生日を祝う変わり映えもしないメール達に目を通すが虚しさがますばかりだ。 携帯を枕の上の方に放り出し、大きめの枕を抱いて顔をうずめる。 存外抜けているから忘れているという可能性もある。 だからって連絡するのも癪だし、自分から催促するなんてもってのほかだ。 まだ半日はあるしもしかしたらこれから連絡があるかもしれない。 でも勝手に希望を持ってまた裏切られるのも嫌だ。 ならば最初から諦めておいた方がいいか。 だるいうえに頭痛はひかないからもう一眠りしようとしたところでインターホンが鳴り響いた。 無視を決め込もうかと思ったが、母が郵便が来るから出ろと言付けてから出掛けていったことを思い出す。 溜め息をついて起き上がり、特に警戒はせず階下の玄関のドアを直接開ける。 家でお決まりの文句を言いながら顔を上げるとここにはいるはずのないない見知った顔。 驚きで思考回路がショートしたのか言葉を失い、へらりと笑う相手の顔をたっぷり20秒程見つめてから自分の行動を巻き戻すようにぱたりとドアを閉めた。 少ししてからドア越しに聞こえ始めた相手の慌てた声は無視し、部屋へと戻り投げ出した携帯を手に取る。 今見た相手から新たな連絡はなかったことを確認してから、着信履歴に残っている番号へ電話をかけた。 『あ、財前くん!?』 「お前何しとんねん」 『何って、財前くんの家の前にいるけど…』 「なんでここにおるんか聞いとるんや!」 『それは、その…会いたくなっちゃって』 「…は?」 『つい…きちゃった』 「きちゃった、やないわボケ」 『ごめん……それで、えっと、いれてもらえないかな?』 「…入ったらええんちゃう?鍵開いとるし」 『あ、うん、じゃあ切るね』 律儀にそう断ってから電話は切れ、携帯を机に置いてから肩の力を抜いてベッドに倒れ込む。 階段を上がる音が聞こえ、ほどなくして部屋のドアがノックされた。 「入れば?」 「お邪魔します…」 「邪魔すんなら帰ってぇな」 「え、」 「冗談や」 自分は寝転がったまま適当に座れと手で指し示す。 所在なさげに大きな体を縮こまらせている姿は滑稽どころか哀れでさえあった。 その顔をじっと見つめると困惑したのか、あたふたしてまたへらりと表情を崩す。 「なんで連絡もせんと来たねん。俺おらんかもしれんやろ。あほう」 「なんだかいる気がしたんだ。だから大丈夫かなって」 「なんの根拠にもなっとらんわ」 もう一度あほ、と呟いて寝返りを打ち壁に向かう。 本当は誕生日を祝う言葉を待っていたのだ。 このタイミングで現れられたら誰だって期待するだろう。 会いたくなって来てくれたのが嬉しくないわけじゃないし、来る連絡をくれなかった事自体に怒っているわけじゃないけど。 でも少しは察して欲しいと、あからさまに不機嫌だという空気を背中で放つ。 「…もしかして体調悪い?タイミング悪かったかな、俺」 やっと重たい沈黙を破ったと思ったら出てきたのは意気消沈したような声。 そんな言葉が聞きたかったんじゃないともどかしさから叫びだしたくなる。 確かに頭は痛いけど気づいてほしいのはそんなことじゃない。 「恋人の誕生日ぐらい祝ったらどうなん?」 ああ、こんな言い方したいわけじゃないのに。 背後からは驚いたような音とえ、とかなんとかいう声が聞こえた。 「財前くん、祝って欲しかったの?」 「好きなやつに誕生日祝われたくない奇特な人間はそうそうおらんわ」 「ごめん、その…前に誕生日なんて子供っぽいとか馬鹿にされてるみたいだって言ってたからてっきり嫌なのかと」 「ちゃうわ。祝ってほしいとか…そんなん正直に言えんし。察せ、あほ」 「そっか、財前くん照れ屋だもんね」 一人納得したような様子に絶句し、否定しようと起き上がりながら振り向くと満面の笑みでベッドに腰掛けて来た。 勢いを消すこともできず近い位置で見つめ合ってしまう。 するりと頭の後ろに手を回され、それを認識し文句を言おうとしたときには既に唇は塞がれていた。 「誕生日おめでとう。本当は今日も驚かせようと思って来たんだ。祝えなくてもそばにいたかったし」 唇を離されても呆然としていたが我に返って恥ずかしくなる。 きっと赤くなっているであろう顔を見られたくなくて相手の胸にぐりぐりと頭を押し付けた。 「…俺の言うこと最初っから最後まで真に受けんなや」 「うん。気付いてあげられなくてごめんね」 嫌がらせのつもりで頭を押しつけていたのに、いつの間にか大きな手に撫でられるがままになっていた。 悔しいけど心地よくてされるがままになっていると頭に暖かい感触を感じて体を離される。 どうかしたのかと見上げるとすまなそうに眉を下げた顔が目に入った。 「ごめん、今日中に戻らなきゃいけないからもう帰らなきゃいけないんだ」 「…あっそ」 「何かして欲しいこと、ある?」 目を覗きこまれれば気恥ずかしくなり視線を下にそらす。 腹のあたりを見ながらいつも言いたくて言えてなかった希望を思い出す。 女々しい願いだから今まで口に出すのははばかられていたのだけれど。 「…財前くんやなくて、名前で、呼べ」 「それでいいの?」 一つ頷いて促すようにくい、と服の裾を引いた。 「光、くん?」 「くん付けいらんって」 「……光」 めったに見ない真剣な瞳と普段より低い声で呼ばれ、なんの変哲もない自分の名前なのにどきりとする。 自分から言いだしたことではあるけれど少しだけ後悔した。 「じゃあ、行くね」 「あー…うん」 照れたように笑い、空気を帰るように言われてそういえばもう帰るのだったと思い出す。 寂しいなどと思っていることを悟られないよう返事をしながら立ち上がると肩を軽く押されベッドに戻された。 「なにすんねん」 「体調悪いんでしょ?ここでいいから」 柔らかく微笑まれればあながち間違ってもいないので反論もできず、少し眉間に皺をよせるに留めた。 小さくため息をついて去る姿を見ないように目を伏せる。 「またね、光」 ぴくりと体が反応するも無視を決め込んでただドアが閉まる音を聞いた。 階段を降りる音が遠ざかってから起き上がって机に行き携帯を手に取る。 視界の隅に見慣れない物が映った気がして机の上へ視線を戻すと小さな箱。 綺麗にラッピングされたそれは昨日もらったプレゼントの中には無い物だった。 「…あほ。直接渡せや」 憎まれ口を叩きながらも緩む頬を抑えることはできなかった。 惚れて通えば千里も一里、会わず戻ればまた千里。 (会えたんやから帰りも一里やな) ―― 財前くん誕生日おめっと(^^) そして素敵な企画に参加させていただきありがとうございます、咲様! ちょたに財前くんをなんと呼ばせるかで一番悩んだんだぜ… 2010.07.20 |