仁王雅治×丸井ブン太/丸井誕/企画「mzsh!」様提出


誕生日というものは日にちによっては厄介だ。
新しいクラスで新しい人間関係を作る時に主張しすぎてもしょうがない。
宣伝しておくのもねだっているみたいだし、当日に言って取ってつけたように祝われるのも言わせてるみたいで嫌だ。
しかし祝って欲しい気持ちもある。
微妙に複雑な心境のまま結局何も言わずに、まだ気を使うクラスメイトとの今日の付き合いを終えた。

部活へ行く気にも帰る気にもなれなくて屋上へと向かう。
涼しい空気に触れればスッキリできるかと扉を開けたが、待っていたのはグレーの空と生温い空気だった。
それでも風に当たりたくて屋上へ歩み出る。
少ししか吹かない風は重たい雨の匂いを運んできていた。
高い所に行けば多少はマシになるかと考え、いや、ただなんとなく高い所に行きたかっただけかもしれないが、とにかく貯水タンクのハシゴを登った。
苦労もせずに上にたどり着き、一番最後の段に手をかけて体を持ち上げる。
動きに合わせて変化した視界にモスグリーンが映った。
どうやらそれは制服の、組んだ足のようだ。
勿論、誰もいないソコを無意識に想像していたから驚いた。
自分の事は棚に上げて、こんな所にいるなんてどんな物好きなヤツなのかと顔見るためハシゴから体を乗り出す。
すると目に入った珍しい銀髪。
立海でこんな髪の色のをしているのはアイツぐらいだ。

「…仁王?」

いぶかしげな色を含んだ声音で呼びかけると、こちらを確認するためか片目を開ける。
だが自身の足が邪魔して良く見えなかったらしく、頭の下に敷いていた腕を外しヒジをついて軽く体を起こした。

「あー…丸井か」

それだけ言ってすぐにさっきと同じ体勢になって寝転んでしまう。
別にわざわざどかしてまで居座りたいワケじゃない。
でもこのまま戻るのもなんだかシャクな気がした。
そこそこいいアイデアだと思っていたのに、その場所に先に人がいた事が気に食わなかったのかもしれない。

自分としては長く考え込んでいた気がするが、時間としては数秒だったと思う。
とにかくココを降りることに決めて足を1つ下の段へ下ろそうとすると仁王が身じろいだ。
どうかしたのかと見ていると、先ほどとは違いシッカリと体を起こしている。
降りるならここをどかなければいけない。
俺に場所を譲るつもりなのだろうか。
さっさと去らずにずっとここにいたから。
俺のせいなら申し訳ないし、第一、譲ってもらうというのはなんとなくプライドを傷つけられたような気分だ。
つまらないプライドだなと思いつつも降りようと気を取り直し、視線を落とす。

「あれ、降りるのか?」
「え?」
「ここ座るかと思うたが」
「へ、あ、うん」

縁に腰をかけた仁王に空いたスペースを指し示された。
予想外の相手の行動にマヌケな声で返答する。
思わず頷いてしまったことに気づきとりあえず移動した。
つかず離れず、人半分ぐらいの微妙な間を開けて座る。
ブラブラと足を投げ出してこの状況と横の銀髪について考える。
そもそも仁王雅治というのはよくわからない人間なのだ。
同じ部活に属してはいるがほとんど接点はないし、人と話しているのもあまり見たことがない。
テニスは強いが遅刻したりサボったりしてよく真田に怒られているのを見る。
とっつきにくそうだけど、一匹狼、というよりはかなりマイペースで一人が好き、という感じだ。
常々不思議なヤツだとは思っていたが、話したことはあるけどただそれだけのチームメイトを退くでもなくなんで隣に誘ったのかは全く謎。
何か俺に用があるわけでもないだろうし。

「いい場所じゃろ」
「ふうん」

そんなにいい場所だとも思えずどっちともつかない返事をした。
思っていたほど眺めはよくないし、空気は重たいまま。
オマケにハシゴのせいで手は鉄臭くなっていた。

「二元目あたりからここでサボっとっての…今何時じゃ?」
「んー3時、40分」
「もう部活か…行かんと怒られるぜよ」
「だなー」

そういえば教室にいなかったなと思ってから同じクラスだったことを思い出した。
口をついて出る中身のカラッポな会話を交わしながらぼんやりと取り留めもないこと、部活のこととかクラスのこととか今日の夕飯のこととかを考える。
妙に心が凪いでいた。
こうやってほとんど知らないよくわからないヤツといるのに落ち着くなんて変な気分だ。
ボーっとしてるだけかもしれないけど。
遅いテンポの会話をポツポツと静寂を挟みつつ続けていると仁王が動いた。

「そろそろ帰るきに」
「おう。なんか邪魔したな」
「まぁの」

邪魔だったのかよと軽く笑いながら言うとそこまでじゃないと返しながら仁王はハシゴを降りていった。
俺も帰ろうかと思案し始めるとひょこりと下ったはずの銀髪がのぞいた。

「どうかした?」
「今日誕生日じゃろ。おめでとさん」

顔だけのぞかせてそれだけ言うとポカンとしている俺を残してさっさと降りて行く。
我に返ってお礼を言おうと貯水タンクの上から屋上を見たときにはもう仁王の姿はなかった。

「あーあ…」

ため息をつきつつ、アイツに祝われたことが無性におかしくなった。
相も変わらず不思議なヤツだが、とっつきにくくはないのかもしれない。
それに、ここもそんなに居心地は悪くない。
ゴロンと貯水タンクの上に寝転がりグレーの空を見上げる。

雨が降りそうだな、と笑った。








――
ぶんちゃん誕生日おめでとう!という訳でぶん誕小説。
あんまり誕生日っぽくないなあとか、におちゃん×ぶんちゃんじゃなくてにおちゃん+ぶんちゃんじゃね?とかは言わないお約束です←

咲様、企画に参加させていただきありがとうございました!

2010.04.20