捧げもの | ナノ

春は眩しい、そんな季節


「今日、授業は休みだよ」


ピシッ


そう宣告されたのは、冬の寒さが消えかかり南から暖かい春風とスギ花粉がやってきた、今日この頃。

太陽が燦々と、まるでヒバリを照り焼きにするかのごとく日射が降り注ぐことも無く、雲が陽を覆い隠し冷たい水滴を地に落とすことも無く。

柔らかい光が差し込む、ある初春。


『ちくしょォォォォォ!!!』


ガンッと拳を固め机にそれを振り落せば、バキッと嫌な音が響いて真っ二つに割れてしまう。

おっといけね、自分が怪力の持ち主だというのをすっかり忘れてたぜ。


「ちょっと、破壊活動なら余所でやってくれる?」

『うるせェェェェ!!テメーにはこの悔しさがわかんねーからそんな呑気なことを言ってられるんだ!この照り照りチキン!!』


期末試験も終わり、テスト休みに入った私の学校。

せっかく早起きしたのにとんだ無駄足だ。階段を上がるのにどれだけ労力を浪費すると思ってんだコノヤロウ!!

あ、クッキー食べよ。食べかけが戸棚の上にあったはず。


「照り照りチキン?また新しい言葉を作ったのかい」

『もうそれをまとめたのを百科事典にして出版しようと検討中であります!!』


並盛家の権力を駆使すれば、そんなのたやすいことなのさ!!


「ワォ、そんな事したらどうなるかわかってるかい?」

『わぉ、アメリカンジョークだって。そんな怖い顔すんな、全然怖くないけど。チキチキてりん、あっ間違えた、照り照りチキン。』

「ふんっ」


おっとォ鼻で笑われてしまった。


視線を下に落とし、カリカリと先ほどまで続けていた作業に戻る。

私には作業にしか見えないが、多分あれは学校の書類だかなんだかだろう。あんなんをやって何が楽しいのだろうか。

うむ、並中好きというそのマニアックな趣味には、ほとほと呆れるばかりさ。


ポリポリとクッキーを齧りながら、ペンの動きを止めることなく手を動かす彼を見ていた。


フサフサとたびたび揺れる黒髪をじっと見つめると、その視線に気が付いたのかこっちに顔を上げた。



目と目が、合う。



一瞬ビクッと飛び上がる心臓を抑えつつ、私はクッキーに目を落としもう一度、ヒバリを見上げた。



彼はまだ私を見ている。


何?


また目があった瞬間ヒバリは







コテンと首をかしげた。










『――――っ!!!』


まっ、まぶしィィィィィ!!!

急に心臓の鼓動が早くなる。

なんだ今のかわいいなオイ!!!



「何?さっきからどうしたの?」

『べっ別に何でもねーよ!!』


くそう。

居たたまれなくなった私はプイッと目線をずらし、黒い革のソファーにボスッと身を放りだす。

フカフカしたソレにしがみついて、ゴロゴロと転がり悶える。


恥ずかしい!!なんか知らんけど私が恥ずかしい!!!何だヤダコレなにコレ!!

ヒバリが一瞬だけ可愛く見えたァァァァ!!!ヤメロォォォ!!幻覚ヤメロォォォ!!!

ナポーか?!奴のせいなのか?!チクショウ!!






うっかり、ときめいてしまった。








春が始まる、そんなある日。



――――
「ちょっと、君。いい加減にしなよ。このままじゃソファーが壊れるでしょ。」

『(ダメだ、もうチキンの顔が見れん。チキンなのは私の方だったのだろうか。こんちくしょうめ)』

「クッキー、あと残り一枚だけど。」

『いるっ………っ!!!!』

「やっと、こっち向いたね」

『――――顔近いわっ!!!』

ヒバリの方が一枚上手だったようだ。


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